太田雄貴のEnjoy FencingBACK NUMBER
太田雄貴が平昌五輪で考えたこと。
マイナー競技“好循環”の作り方。
text by
太田雄貴Yuki Ota
photograph byAugust Bizzi
posted2018/03/01 07:00
W杯パリ大会。白熱する試合展開に、観客席はおおいに盛り上がっていた。太田会長も思わず立ち上がる!
フェンシングをビジネス化できるか。
そしてもう1つが、今回の理事会でプレゼンテーションを行った「フェンシング・ビジュアライズド」の取り組みです。
https://www.youtube.com/watch?v=FCgiOiEO_uQ
こちらを見ていただければと思うのですが、電通の菅野薫さん、ライゾマティクスの真鍋大度さんと組み、テクノロジーの力を活用して初心者にはわかりにくいフェンシングの動きや迫力を「ビジュアライズ(可視化)」していく試みで、これを私はFIEのツールとして活用してもらい、世界でのフェンシング普及のために使っていきたいと考えています。そこで今回は、映像をFIE向けに編集し直してプレゼンテーションを行い、連盟正式の事業として投資をお願いしたのです。
しかしながら、返ってきたのは厳しい答えでした。
当然といえば当然です。フェンシングのためを思って取り組んでいる事業であっても、投資するには、ビジネスとして成立させなければならないからです。
「いくらか金を集めてモスクワに来い」
私の中には、こういった取り組みをするときの資金は、IOCがつけている各競技のランクの中で、フェンシングの地位を引き上げていく中で回収できて、プラスに転じるのではないか、という目論見がありました。
現在、IOCはオリンピックスポーツをすべてランク分けしていて、陸上、水泳、体操はAランク、サッカー、テニスなどはBランク、柔道やアーチェリーなどはCランクといった形で、ランクに応じてIOCからの分配金が増えて行くのですが、フェンシングは現在Dランク。このランクをCにあげることができれば、「フェンシング・ビジュアライズド」にかかる資金も十分回収することができるはず。しかし……実際にそのプロセスや、細かな数字まで理事会に上げることは難しかった。結果として決裁は降りませんでした。
とはいえ、ウスマノフ会長との議論は、本当に楽しくチャレンジングなものでした。この人はロシアでも有数の大富豪で、一筋縄ではいかないけれど大人物。今回は説得できなかったけれど、彼の意見に食い下がっていくと、あとで話すと「俺は座っているだけのやつは認めない。どんどん議論をしよう。いくらか金を集めて、モスクワに来い。そうしたらなんとかするから」なんて話にもなりました。
今回は彼との「試合」には負けましたが、最高の相手です。これからもどんどん挑んでいきたいと思っています。
また、理事会に出席することで、世界のトレンドを肌で感じることができます。これを日本に持ち帰り、共有すべきものはしっかりと仲間と共有した上で、長いスパンでの目標を見据えて目の前の一手一手を打っていこうと考えています。