太田雄貴のEnjoy FencingBACK NUMBER
太田雄貴が平昌五輪で考えたこと。
マイナー競技“好循環”の作り方。
text by
太田雄貴Yuki Ota
photograph byAugust Bizzi
posted2018/03/01 07:00
W杯パリ大会。白熱する試合展開に、観客席はおおいに盛り上がっていた。太田会長も思わず立ち上がる!
認知、関心、そして投資の好循環を。
問題は、強化を進め、結果を出していくなかで、マイナースポーツであるフェンシングへの人々の認知、関心を高め、さらなる投資へとつないでいく「好循環」を作っていけるかどうか、です。
たとえば平昌で、スピードスケートやカーリングは、結果を出しました。強化が実ったといえますが、ここから先の「認知」や「人気」を広げていくために、競技団体としてどういった取り組みをしていくかが大切になってきます。
五輪で活躍した小平奈緒選手や高木菜那選手、高木美帆選手、女子カーリングのLS北見を見るために、どれだけ多くの観客が地方での大会に足を運んでくださるか、またその時に競技の魅力をしっかり伝える事ができるか……。世界と戦える競技であることの「認知」は進みましたが、ここから持続的な「人気」につなげていけるかどうか。今はチャンスである一方、この盛り上がりが「瞬間最大風速」になってしまうかどうかの正念場でもあります。
予算やマンパワーを「交流」で使う。
この点、フィギュアスケートは、五輪後も世界選手権があり、シーズンが終わってもアイスショーなどがあります。そこできちんとファンやスポンサーを取り込んでビジネスを成立させつつも、トップ選手個々の人気をうまく次のシーズンにつなげていく仕組みができているように感じます。
競技団体の長として、日々痛感していることは、一部のメジャースポーツを除けば、この強化と投資の好循環を作れている競技が私たちも含めて日本にはとても少ない、ということです。大きくなる一方のアメリカのスポーツビジネス界では当たり前のことですが、選手強化にお金を使い、マーケットを大きくしていって外から資金がどんどん投入され、それがまた選手に還元されていくという、一見間接的に見えるけれども大きな形を作りたいのですが、なかなか簡単にはいきません。
また、限られた予算やマンパワーといった「エネルギー」の使い方にも課題があります。たとえていえば、「直流」的な使い方から「交流」的な使い方にどのように移行していくか。短期決戦ならば、直流でガンガン熱量を投入していけば結果が出る可能性は高い。しかしながらこの「直流」方式は消費も早く、どうしても自転車操業になってしまいます。
10年、20年といった長期での計画をしっかりと立てて、その時その時の会長や専務理事の熱量の大小に左右されず、時間軸とエネルギー量をコントロールしながら少しずつでも将来のための投資を行い、マーケットが大きくなったときにきちんと追加エネルギーが投入できる「交流」的な使い方を目指したいと思っています。