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長風呂と漫画と謝罪。
増田達至がつくる新たなストッパー像。 

text by

鈴木忠平

鈴木忠平Tadahira Suzuki

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photograph byHideki Sugiyama

posted2018/03/23 11:30

長風呂と漫画と謝罪。増田達至がつくる新たなストッパー像。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

お風呂で『ミナミの帝王』を読んで。

「打たれても、負けても普通に過ごすようにしています。次の日もあるんで、球場を出る時は野球のことは忘れています。ルーティンもなくて、あまり考え込まない方ですが、1つ、続けているのは長風呂ですかねえ……」

 ナイターが始まる前、練習を済ませ、ミーティングを終えると、増田はクラブハウスにある風呂の扉を開ける。

「漫画が置いてあるんで。『ミナミの帝王』とか。あれ分厚いじゃないですか。それを読みながら1時間くらい、ゆっくり入ります」

 これからやるかやられるかの勝負をする人間はほとんどの場合、ゆっくり風呂に浸かろうという心理にはなれないのではないだろうか。事実、試合直前の浴場は、増田以外には登板予定のない先発投手が数人いるだけだという。そんな中でこれからチームで最も厳しいマウンドに立つ男は熱湯を足し、少し熱めにした湯船に身を沈める。彼が切り替えの達人である所以かもしれない。

「僕はすぐに先発投手に謝ります」

 もちろん、増田にだって傷心の夜はある。

「去年、夏前の試合で、続けてやられた時とか苦しかったですね」

 ストッパーは先発投手やチームの勝ち星を背負っているだけに1つの失敗でもダメージは大きい。ましてそれが続けば仲間からの信頼に関わってくる。ストッパーがその精神力を問われる瞬間だが、増田はここでも独特の行動に出る。

「僕はすぐに先発投手に謝ります。『すいませんでした』って。そこからはもう普通にしています。後輩にも謝ります。『後で何言われれるか、わからんけど、ごめんな』って(笑)。そして、あとは普通にしています」

 かつて、ある名捕手に聞いたことがある。打たれた直後のストッパーはどう振舞うべきか。すると、こんな答えが返ってきた。

【次ページ】 ストッパーが背負う“十字架”。

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