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小野塚彩那「やりきれて良かった」
五輪選手も恐怖心との戦いは難しい。
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph bySunao Noto/JMPA
posted2018/02/21 11:40
フィジカルは万全の調整だったが、恐怖心だけは常にふっと顔を出す可能性がある。小野塚彩那もその難しさと戦っていたのだ。
12月の脳震盪で植えつけられた恐怖。
「注目される大会でしっかりと結果を出してきたという自信、毎年掲げてきた目標をクリアしてきたという自信はある」
そういった思いも金メダルを目指す力になっていた。
ところが、平昌五輪での金メダル獲得を目指し、順調に歩みを進めていた小野塚にアクシデントが襲いかかった。昨年12月6日に米国コロラド州コッパーマウンテンで行われたW杯女子ハーフパイプ予選。演技の最後に入れた「720(横2回転)」の着地に失敗して脳震盪を起こし、救急搬送されたのだ。
小野塚はこの大会中に練習も含めて3度転倒し、その都度、硬いパイプに身体を打ちつけられたという。
脳震盪から1カ月間は練習ができず、復帰したのは今年1月。五輪本番前の大事な時期に雪から離れた不安、そして技への恐怖心。平昌五輪でのランはそれらを乗り越えてのものだった。
「最後のライトセブン(720)は12月に脳震盪を起こしたときと同じトリックだったのですが、あのスピードで行ったら、という恐怖心が先に出てしまった。今回は何かのプレッシャーというわけではなく自分自身との戦いだったので、そこはちょっと悔やまれます」
決勝では、横回転だけではなく、それに縦回転を組み合わせたアクロバティックな技を披露する選手が表彰台に上がった。ジャンプの高さも小野塚と比べると開きがあった。来季以降も世界上位を狙うとなれば、技の種類や高さをもっと出していく必要があるだろう。
「本当に一番勝ちたい大会はXゲーム」
'14年ソチ五輪から正式種目になったばかりのフリースタイルスキー女子ハーフパイプ。その認知度を上げたのは紛れもなく小野塚だ。ソチ五輪後の取材では、「本当に一番勝ちたい大会はXゲームなんです。少数精鋭で、出られる選手が限られているし、だからレベルもすごく高い」と華やかさにあこがれる目を見せ、実際に'15年1月のXゲームでは2位になり、夢の一端を叶えた。
その一方で、つねにW杯総合優勝や世界選手権優勝という現実的なターゲットにもコミットしてきた。その先にある五輪で金メダルを獲り、さらに注目度を上げたいという思いがあったからだ。
世界選手権優勝者として、今回はプレッシャーがあったのではないか?
そう聞かれ、「重圧はあまりないんです。プレッシャーというより、自分との戦いでした」と穏やかに微笑んだ。白銀の世界に愛され、白銀の世界で自分と戦い続けた小野塚の目に、うっすらと涙が浮かんだ。