One story of the fieldBACK NUMBER
清原和博がプライドを覗かせた日。
「自分の名前が出て、嬉しい……」
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byHideki Sugiyama
posted2017/12/31 07:00
不滅と思われた清原和博の1大会5本塁打という記録は、中村奨成によって塗りかえられた。それは、清原に何を思い出させたのだろうか。
自分の名前が出ることは、やっぱり嬉しい。
だから、あの32年前の夏の英雄は、確かに自分であると、確信を持って語るこの日の清原氏がどこか新鮮だったのかもしれない。私はもっとそういう部分が見てみたかった。
――中村くんはプロでどういう打者になりますかね。
「あらかじめ、トップの位置を決めて、コンパクトに振り下ろすスイングですよね。ちょっと変化球に苦労しそうな打ち方ですけど、すごい選手が出てきたなあと感じますね。次はプロに入って、僕のルーキーイヤーの30本に挑戦してほしいですね」
そう言う清原氏の自信に満ちた表情は、ユニホームをまとい、バットを握っていた頃と重なった。ここまできて、私は最初に見た複雑な表情が何を意味していたのか、わかった気がした。だから、こう聞いてみた。
――甲子園からしばらく清原さんの名前が消えていましたが、中村くんが記録をつくったことで、久しぶりにテレビ中継に名前が出ましたね。
清原氏はしばらく沈黙した後に、こう言った。
「名前が出なかったというのは仕方ないんですよね。僕が起こした事件のせいなんで……。でも自分の名前が出てきて、嬉しいですね。やっぱりね……」
こうして、また清原氏は執行猶予中の人生を1歩、進んでいけるのだろう。あの中村のホームランは多くの野球少年に夢を与えたことだろう。ただ、ここにも1人、あのホームランによって、自分を支えているものを思い出せた人がいる。野球の持つ力、スポーツの持つ力を感じることができた瞬間。
だから、今、あの何の変哲もない夏の1日が妙に心に残っているのかもしれない。