酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
トライアウト、彼らの前途に幸あれ。
あまりに狭き門と絡み合う「物語」。
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byKyodo News
posted2017/11/17 10:30
ソフトバンクから戦力外通告された大隣憲司は、2017年の参加者の中でも頭1つ抜けた存在感を発揮していた。
家族を追う『プロ野球戦力外通告』はいまや人気番組。
今年の12球団トライアウトは、広島の本拠地、マツダスタジアムで行われた。9時半の開場からほどなくして内野席は半分以上埋まった。
テレビのカメラクルーが、ある家族が入ってくるのを追いかけている。『プロ野球戦力外通告』は、いまや人気番組だ。そのドキュメントシーンの撮影なのだろう。
朝の光を浴びて、選手がグランドで体を動かしている。選手たちが午前中から野球をするのは、キャンプ以外ではありえない。
彼らは、入念に準備体操をし、シートノックを受けてからトライアウトに臨む。
今年は投手が26人、野手が25人。
投手は4人の打者と対戦。野手は3人の投手と対戦とアナウンスがあったが、野手はもう少し多く打席に立った。カウントは1-1から。
投手は元ヤクルトのフェルナンデス、打者は西武の田代将太郎の対戦を皮切りに淡々とトライアウトは進んでいく。
一塁には適宜走者がいて、盗塁する。捕手はそれを刺す。守備も含め、こうしたプレーも全部評価の対象になる。
広島の選手には一際大きな拍手が送られる。
バックネット裏には12球団のスカウトや監督、コーチが陣取っている。
四球になっても一塁に出るわけではない。打撃をアピールしたい打者にとって、制球が悪い投手に当たるのは迷惑な話だろう。そういうめぐりあわせもある。
中日の古本武尊が元ソフトバンクの巽真悟から右翼へ本塁打を打ったが、これは捕手の広島、多田大輔が捕邪飛を落とした後だった。巽は舌打ちしただろうし、古本はラッキーと思ったはずだ。そして多田の評価は下がったはずだ。
客席には、野球好きが集まっている。ひとつひとつのプレーに、拍手が潮騒のように起こる。特に地元広島の選手や、広島出身の選手への拍手は大きい。これは胸が熱くなる。