ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
引退の宮里藍が会見で迷った瞬間。
「世界1位よりもプロセスが大事」
posted2017/09/21 08:00
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph by
AFLO
アメリカに渡ったおよそ11年半前。
宮里藍は当時「1年でペラペラになってやる!」と英会話の習得に息巻いていたそうだ。
2006年の米ツアー新人時代。クリスティーナ・キムら先輩プロに食事に誘われ、臆することなくテーブルを囲んだ。そんな時いつも手元にあった小さな辞書は、いつの間にか必要なくなった。
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外国人選手と英語でコミュニケーションをとり、2015年には全米女子プロゴルフ協会(LPGA)のプレーヤー・ディレクターに立候補。投票の末に、ツアーと話し合いを行う際の選手の代表役を務めるほどになった。
ただ、そんな彼女もあらゆるメディアを前にした公式会見ともなると、壇上の脇には長年サポートを受けている通訳兼マネージャーが付き添った。
人に意思を正確に伝えるのは容易いことではない。相手の受け取り方によっては小さな感覚のズレが、たちまち波紋を生じさせることもある。英語でも早口な宮里も、回答に本当に困った時はそっと隣に目をやって慎重に英訳を求めた。
宮里が通訳に頼ってまで伝えたかった「プロセス」。
今年6月、現役引退を発表してから初めて米ツアーに復帰した、アーカンソー州でのトーナメント。そんなシーンがあった。
現地の関係者は数週間前に日本から発信されたニュースに、まだ驚きを隠せないでいた。
大会開幕前の会見場でのインタビューが開始から17分を過ぎた頃。 「2010年に世界ランキング1位になったことの意義と重要性」を問われた宮里は、流暢に英単語を並べていたが、何度か言葉につまり、視線を右側に振った。
「……なんかその、『すごい大事なことのように思えるけれど、それよりもプロセスの方が大事』って言いたいの」
「The process has been more important than becoming actually No.1」
日本語で意思を伝えたマネージャーがマイクを手にそう言うと、宮里は「あら、意外と短かかった」と、つぶやいて笑った。
米ツアー初優勝の地であるフランス・エビアンで14年のプロ生活に終止符を打った宮里が、通訳に頼ってまで伝えたかったプロセスの意味とは何だったのか。