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昇格を争った相手からのオファー。
柴崎岳とヘタフェの不思議な縁。

posted2017/07/27 17:00

 
昇格を争った相手からのオファー。柴崎岳とヘタフェの不思議な縁。<Number Web> photograph by Getty Images

昇格プレーオフで戦ったヘタフェからのオファーは「1部に連れていきたい選手」という柴崎への評価でもあったのだ。

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工藤拓

工藤拓Taku Kudo

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「オラ(こんにちは)! 柴崎岳です。ヘタフェとヘタフェファンのみなさん、はじめまして。ちょっと緊張しています」

 入団会見の冒頭で、柴崎岳はスペイン語でそう挨拶した後、照れ臭そうな笑みを浮かべた。

 2部テネリフェでのプレーを経て、半年越しに実現したスペイン1部への移籍。複数のクラブが獲得に興味を示す中、柴崎が選んだのは「一番クラブからの熱意というか、必要とされていることを感じた」というヘタフェだった。

 ヘタフェは創立1983年という歴史の浅い町クラブだ。

 1部初昇格も2004年と最近のことだが、その後は12シーズンにわたって1部に定着。その間には2年連続('07、'08年)のコパデルレイ準優勝、初出場のUEFAカップでの8強入り('07-'08)といった成功も収めた。延長戦までもつれ込んだ準々決勝バイエルン戦の死闘は、今でも語り草となっているクラブ史上最高の名勝負である。

欧州進出は難しいが、降格を心配するチームでもない。

 しかし、近年は資金難から徐々にチームが弱体化し、残留争いを繰り返した末に一昨季の2部降格に至った。

 幸いにも1年で1部に復帰できたものの、ほどなく9年間スポーツディレクターを務めてきたトニ・ムニョスが退任。エスパニョールなどでSD職を歴任してきたラモン・プラナスを迎えた今季は新たなプロジェクトの下、再スタートを切ることになる。

 レベル的に欧州進出は難しい反面、一昨季のようによほど大きく躓かなければ残留争いに巻き込まれるチームでもない。また地元民の関心は2つのビッグクラブ、レアル・マドリーとアトレティコ・マドリーに集中しているため、ファンやメディアから大きなプレッシャーを受けることもない。

 こうしたヘタフェの特徴は若い選手が1部でのプレー経験を積むには最適な環境であり、クラブも金をかけない戦力補強の手段としてビッグクラブの若手有望株たちをレンタルで受け入れてきた。

【次ページ】 2列目は激戦区で、10番といえど立場は約束されない。

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