スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
昇格を争った相手からのオファー。
柴崎岳とヘタフェの不思議な縁。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byGetty Images
posted2017/07/27 17:00
昇格プレーオフで戦ったヘタフェからのオファーは「1部に連れていきたい選手」という柴崎への評価でもあったのだ。
2列目は激戦区で、10番といえど立場は約束されない。
今夏もアンヘル・トーレス会長は「レアル・マドリーとアトレティコから数選手を借りる予定」と話しているが、並行してプラナスは数年スパンでのチーム強化を考えた複数年契約での選手補強にも動いている。
まず昨季主力として活躍したレンタル組のダニ・パチェコ、フランシスコ・ポルティージョ、アルバロ・ヒメネス、チュリの4人は完全移籍での残留が決定。最終ラインには2人のセンターバック(ブルーノ・ゴンサレスとエミリアーノ・ベラスケス)と左SBのビトリーノ・アントゥネス、そして両SBにCBもこなせるジェネを補強した。
中盤には1部でのプレー経験が豊富なレアル・ソシエダのボランチ、マルケル・ベルガラを獲得。2列目には柴崎に加えて左利きのテクニシャン、モロッコ代表MFのファイサル・ファジルも加わった。
他にもパチェコ、ポルティージョ、チュリ、アルバロらがいる2列目は激戦区であり、背番号10を与えられた柴崎もポジションが確約されているわけではない。
テネリフェ時代、ヘタフェとは不思議な縁があった。
それも見方を変えれば、中盤の陣容は昨季のテネリフェを大きく上回る質と量を誇る。しかも前線には巧みなポストプレーとシュート技術を持つベテランのホルヘ・モリーナに加え、昨季2部で21ゴールを挙げた快速FWアンヘル・ロドリゲスも加入した。彼らは周囲との連係プレーを得意とする柴崎がボールを持つたび、多くの選択肢を与えてくれるはずだ。
柴崎とヘタフェは不思議な縁で繋がっている。
3月12日のスペイン2部第29節。1月末にテネリフェに入団して間もなく体調不良に苦しんだ後、初めて招集メンバーに入ったのがヘタフェとのアウェー戦だった。
そして6月24日、柴崎がテネリフェの選手として最後にプレーした場所もまた、同じコリセウム・アルフォンソ・ペレスだった。
あと1点が足りずに1部昇格を逃したテネリフェの面々にとって、眼前で繰り広げられた地元ファンのお祭り騒ぎは、この上なく残酷な光景に映ったことだろう。