世界王者が多い日本で、統一王者を求める異端の選手。

　リング下の畑中会長が頷くと、会場は再び大喝采に包まれた。

「はい、畑中会長1発KO！　次、統一戦やります！　田口選手、渡辺会長の説得、お願いします！　それでライトフライ級、年内卒業！　皆さん、今日は楽しめましたよね？　ありがとうございました！」

　最強の相手と濃密なフルラウンドを戦ったボクサーが早くも次の相手を指名したのだ。

　こうして統一戦への道筋は描かれた。あとは数カ月後の田口の防衛戦と、渡辺均会長の決断次第となったわけだ。

　この同じ日に拳四朗（25＝BMB）がWBC王者となったため、ライトフライ級は4団体中3団体が日本人王者という状況になった。

　団体の増加、テレビ局の事情などから現在のボクシング界には「チャンピオン」が何人もいる。そんな中で統一戦を強く志向していく田中は異端に映る。

　誰が1番強いのか。

　求めるのはシンプルな刺激だ。

「僕はもう強い相手と、ビッグマッチしかやりたくない」

　筆者が田中と初めて会ったのはこのタイトルマッチが決まる前、名古屋市内の焼肉店だった。

　彼はソフトドリンクを片手に肉をつつきながら、ここでも畑中会長へ訴えていた。

「僕はもう強い相手と、ビッグマッチしかやりたくないんですよ」

「恒成、そりゃあわかるよ。俺だってそうしたいよ。けど、相手があるのが交渉事だから。大人の事情もあるんよ」

「僕だってわかりますよ。でも、それが会長の仕事じゃないですか」

　泣く子も敬礼する元世界王者・畑中清詞を相手に欲望をストレートにぶつけていく。彼が望むのはより強く、大きな相手であり、より刺激のあるリングだった。

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