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「会長、次、統一戦にして下さい!」
拳闘界、異端の世界王者・田中恒成。
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byKyodo News
posted2017/05/25 07:00
5回にアンヘル・アコスタからダウンを奪った田中恒成。日本におけるボクシングのイメージを変えられるか?
田中と議論になった「ボクシングのイメージ」とは?
その会食の席で、田中と議論になったことがある。
ボクシングの魅力についてだ。どちらかといえば『あしたのジョー』を読んで育った筆者はこう言った。
「ボクシングは他のスポーツとかけているものが違う。極端に言うと命や人生をかけて、それが1試合で華やかに膨らんだり、無になったりする。その悲壮感や儚さがいい」
すると現役チャンピオンは真っ向から反論してきた。
「それは昔のイメージですよね。そういうイメージを引きずっているからボクシングは報われないと思われるし、プロでも食えない。僕は他の競技と同じだと思う。スポーツとしてボクシングを極めたいと思ってますよ」
パッキャオも矢吹丈も、貧しさを背負って戦ったが……。
かつてフィリピンの貧しい野菜農家に生まれた6階級制覇王者マニー・パッキャオは中学を中退し、路上で野菜やタバコを売っていた。今の田中と同じライトフライ級でデビューすると、やがてアメリカに渡り、どんどん階級を上げながら格上の相手を次々と屠り、無に等しかった己の市場価値を1試合100億円規模にまで膨らませた。その姿を「クッキー」を食べ尽くしながら強くなっていくテレビゲームになぞらえ、「パックマン」というニックネームがつけられた。
確かにパッキャオは貧困から脱出するためにリングに上がったかもしれない。矢吹丈は貧しいドヤ街の夢を背負って泪橋を逆に渡ったかもしれない。
ただ、田中は言う。
それだけがハングリーの定義ではない、と――。