“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
名波監督「高原、柳沢、城より……」
英才教育の小川航基が持つ才能。
posted2017/05/12 08:00
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph by
Takahito Ando
「あいつはね、高級な魚だよ」
5月10日行われたルヴァンカップ・清水vs.磐田の静岡ダービーの試合後。記者会見を終え、引き上げる磐田・名波浩監督を捕まえた。フル出場を果たしたFW小川航基について質問を投げかけると、こう例えてみせた。
桐光学園からジュビロ磐田に入団して今年で2年目となる小川は、ルーキーイヤーの昨季はリーグ戦の出場機会はゼロで、カップ戦での出場も2試合に留まっていた。
U-19日本代表のエースストライカーとして代表チームをAFC U-19選手権優勝に導くなど、派手な活躍をする一方で、磐田では目立った活躍の無いままの1年を過ごしていたのだ。
小川は入団当初、“高校ナンバーワン・ストライカー”“年代別日本代表の不動のエース”という2枚看板を背負い、鳴り物入りで磐田にやってきていた。背番号もかつてのエースストライカーである前田遼一(現・FC東京)が背負っていた18番を託されるなど、まさに「スター扱い」されてもおかしくない待遇だった。
しかし、そんな彼に名波監督は試練を与えた。
心の中では「高級魚」と最大限の評価をしながらも、それを一切表に出さず、厳しい扱いに徹したのだ。
「高級な魚だからこそ、上手く料理をしてあげないと」
「あいつは高級な魚だからこそ、上手く料理をしてあげないといけない。『鮮度が良いうちに』という考え方はあると思うけど、鮮度を重視しただけで(お客さんの前に)出してしまったら、途端に味が落ちてしまうかもしれない。だからこそ、上手く味付けができるような環境を作らないと」
1年目の小川はその「味付け」ができるような状態ではなかった、ということらしい。
実際、当時の小川は点を獲るという結果を求めるあまり、常にゴールを狙えるポジションに陣取って、味方からのパスを待ったり、ボールを受けても無理に突っかけてボールを奪われてしまうようなシーンが多かった。
「プロとしてのFWは、ペナルティーボックスの中とか、ボックスの近くにいて点が獲れるほど簡単ではない。歴代の高卒ストライカーとして代表的な選手である城彰二、柳沢敦、高原直泰がずっとやってきたことは、飽くなきゴールへの執着心だけでなく、止まらない動き出しの連続、ファーストタッチを置く位置の追求とか、より点を獲るためにどうすべきかの工夫だった。昨年の彼にはそれが足りなかった」