イチ流に触れてBACK NUMBER
「それでもバカには野球は向かない」
3割守るイチローが語った孤高の矜持。
posted2017/04/12 11:30
text by
笹田幸嗣Koji Sasada
photograph by
Tim Clayton/Corbis via Getty Images
今季初安打はチーム5試合目、自身3打席目に生まれた。
カウント3-1。
右腕モンテロ(メッツ)が投げ込んだ90マイル(約145キロ)のツーシームを捉えた打球は、快音を残し右前へと弾んだ。投手がカウントを取りにいくボールで不用意に速球系を投げ込めば、痛い目にあうことを早速示した形となった。
歴代25位の3031安打を放ったイチローに、メジャー17年目に生まれた最初の1本の感想を問うと、苦笑しながら答えた。
「差し当たって(言うことは)ないですけど」
それでも1本目が生まれなければ、2本目も生まれない。表情には安堵感も漂った。
昨季よりバットが自然に出てくるようになった。
昨季残した打率.291は10年連続200安打を放った'10年以降では最高の数字となった。42歳にして、150キロ以上のパワーボールに力負けしない打撃を再構築し「相手が(僕を)嫌がっているのが見える瞬間が多かった」と振り返った。
今季もその自信は揺るがない。
それどころか、昨季以上の手応えをイチローは感じ取っている。45日間にも及ぶスプリングトレーニングでその確信は言葉の端々に表れた。
3月10日。この時点で安打はまだ1本だったが、内容は芯で捉える“クオリティー・アット・バット(質の高い打席)”が目立った。
シーズンでも滅多に自身の打撃状態を表現しない背番号51はこの日、こんな言葉を残した。
「出したいと思ったら、そこに(バットは)来る感じはしますけどね」
独特な彼の言い回しをわかりやすく補足すれば『どんなボールに対しても自分の打ちたいと思うポイントにバットが自然と出てくる感じ』ということになる。