イチ流に触れてBACK NUMBER
「それでもバカには野球は向かない」
3割守るイチローが語った孤高の矜持。
text by
笹田幸嗣Koji Sasada
photograph byTim Clayton/Corbis via Getty Images
posted2017/04/12 11:30
打席数は少なくなっても、その驚異的な活躍ぶりは今年も変わらず……。
速球に対し、さらに対応できるようになった今季。
'11年シーズンから'15年まではパワーボールに力負けすることが多く、ヒッティングポイントが差し込まれがちだったが、その課題を見事に解消したのが昨季だった。
10年連続200安打を放っていた頃は、弓道の弓のようにギュッと引いた弦を一瞬にして解き放つインサイドアウトのスイングがイチローの持ち味だった。だが、年齢を重ねるとともにこのスイングではパワー系のボールに差し込まれることが多くなっていった。
そこで昨季取り組んだのがトップから最短距離でバットを出すコンパクトなスイングだった。
“捻れ”から“ぶつける”イメージに変えたことで上半身の動きが簡略化され、その結果、踏み出す右足のステップが自然とほぼ摺り足へと移行していった。
このコンマ何秒のスイングの「時短」に成功したことで、パワーボールへの課題を解消。ヒッティングポイントを取り戻し、更には相乗効果として目線の上下動も少なくなった。
これが昨季V字回復を見せた原理である。
「出したいところにバットが出てくる」ようになったのである。
1試合3打席の条件下で毎試合2安打!?
この春も順調に調整を重ねたイチローは3月23日からは出場3試合連続でマルチ安打を放った。
特筆すべきは1試合3打席しか与えられない中で毎試合2安打を続けたこと。この間9打数6安打、打率.667。
イチローに手応えを問うと、その答えはクールだった。
「ありますよ。あるけどわざわざ発表しないというだけです」
それでもこちらが食い下がろうとすると笑い飛ばしてこう言った。
「見て楽しんでいればいいんじゃない。そんなの」
順調な調整、自身の打撃術への確かな手応えを感じとるには十分な言葉となった。