ミックスゾーンの行間BACK NUMBER
権田修一、味スタで流した涙の裏側。
「あのピッチに立つことが怖かった」
text by
西川結城Yuki Nishikawa
photograph byJ.LEAGUE PHOTOS
posted2017/04/06 11:15
味の素スタジアムに、鳥栖の一員として立った権田修一。不器用が免罪符になるわけではないが、この男が悪い人間でないのもまた事実なのだ。
「これからは、マッシモと呼んでもいいですか?」
自分のサッカー人生。そして同時に、多くの人々に思いを託されて戦ってきたプロ選手。何を優先し、何を選択するか。その決断の末に、犠牲にすることも出てくるのがこの世界。正解などないのかもしれない。ただ、自分を支えてきてくれた人たちの尊さは忘れない。
申し訳なさと、人々の優しさに触れたことで、涙が流れた。そしてこの約2年、苦しみ続けた自分からようやく解放された涙でもあった。
「僕は思ったことを人にストレートに言ってしまう。だから誤解も招く。世の中に好かれる選手じゃないんです。でも、それは好き嫌いで言っているわけではないし、たとえ一度話して伝わらなくても、僕は何度もトライして人とわかり合いたいと考えてしまう。これが、僕の性格なんです。
ミステル(イタリア語で監督。フィッカデンティ監督の呼び名)にもかつて僕は主張して、真正面からぶつかった。いくらぶつかっても諦めない。それが、自分自身を苦しめることにもなった。ただそうしたことで、今ミステルと再び一緒に戦える関係になった。僕は監督どうこうではなく、今ではマッシモ・フィッカデンティという人間が好きです。だから今日の練習後、『これからは、マッシモと呼んでもいいですか?』と話してこようと思って(笑)」
自分の性格が招いた経験を、美談にするつもりはない。
権田の真っ直ぐ過ぎる性格。ただ本人も自分の性分が招いてしまったとも語る苦しい経験を、美談にするつもりはない。
「僕は『この2年の経験があって、今がある』なんてことは絶対に思わない。しないに越したことはなかった。本当に辛かったから。特に身近な人たちに辛い思いをさせた。
でもようやく前に進んでいる。家族も一緒に進んでいる。それが大事なことなんだと思う」
FC東京は、彼にとっていつまで経っても特別なクラブだ。「またプレーしたいから戻れるというわけではない」。いまは、その気持ちを前面に出すつもりもなければ、資格もない。ただ、権田はあの試合で新たな自分も見つけ出していた。