濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
早熟のエース・竹下幸之介を変えた、
挫折の物語と「DDTを象徴する技」。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byEssei Hara
posted2017/03/25 07:00
さいたまスーパーアリーナ大会最終盤での集合写真。我が道を行くDDTだが、竹下を中心にして、世界を視野に入れた活動に踏み出しつつある。
手に汗握る攻防の末に繰り出したのは……。
重い問いかけをはらんだ試合は、予想通りロングマッチになった。
徹底した脚攻めから容赦のない顔面への蹴り、危険な投げを見せるHARASHIMAに竹下が食い下がる。HARASHIMAの得意技の1つ「山折り」を見舞い、今は新日本プロレスで活躍するケニー・オメガのクロイツ・ラスも。竹下はかつて遠藤哲哉とのタッグでケニーに勝利し、団体の未来を託されている。そのケニーの技がここで出た。単に身体能力が高いだけではない“プロレスラー”としてのセンスの証明だ。
さらに、である。試合時間が30分を超えた正念場で、竹下は渾身のバイオニック・エルボーを叩き込んだ。パンチを連打し、両拳をグルグルと回してタメを作ってからのエルボー。早い話が見せ技、パフォーマンス色の強い技であり、タメている間に逆襲されるのも定番だ。
「バイオニック・エルボーはDDTを象徴する技」
そういう技をタイトルマッチで、勝負どころで使った。ダスティ・ローデスが得意としたバイオニック・エルボーをDDTで使っているのはアントンことアントーニオ本多。どちらかと言わなくともアスリートではなく文化系、シリアスよりもバラエティ担当と思われている選手だ。
そのアントンを慕う竹下は、トランザム★ヒロシと3人でユニット『ハッピーモーテル』を組んでいる。2人の先輩によって、エリートは自分が孤独ではないと知ったのだった。
「本能ですね。タイトルマッチは、最後は気持ちの勝負。バイオニック・エルボーはDDTを象徴する技だと思ってて、それが咄嗟に出たんです」
試合後の竹下の言葉を聞くまでもなかった。バイオニック・エルボーを繰り出した瞬間に、誰もが理解したのだ。竹下がハッピーモーテルとDDTのバカバカしい楽しさ、誤解されたり怒られたりしがちなエンターテイメント性をどれだけ愛しているかを。