オフサイド・トリップBACK NUMBER
リトバルスキーが語る香川再生論。
「私から見れば、彼は100%右利きだ」
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byAFLO
posted2017/03/03 07:00
香川真司の繊細なプレースタイルは、今季のドルトムントでは輝きを失っている。香川はどんなキャリアパスを選択するのだろうか。
香川のような10番が欲しいチームは無数にある。
――答えは自ずと明らかだと思います。
「そう。本気で現状を打破したいなら、出場機会を増やせる環境を作り出していくしかない。具体的に言えば、トップレベルのクラブにこだわらず、ブンデスリーガの中堅以下のクラブや、場合によっては2部のクラブに移籍することを視野に入れてもいいのではないだろうか」
――それぐらいの思い切った決断が必要だと。
「むろん2部のクラブに移籍するというのは極論だ。ほとんどの人は、そんな選択はあり得ないと拒絶反応を示すだろうし、香川自身のプライドも大きく傷つく形になるだろう。
だが、これはプライドを捨てるということではない。サッカー選手としてのプライドをどこに見出し、何に優先順位を置くかという話だ。香川が真の意味でキャリアメイクを考えるなら、クラブの格を落としても、コンスタントに試合に出られるようにしていくのはきわめて重要だと思う」
――ドイツ以外のクラブに移籍するというようなオプションは?
「オランダやベルギーのクラブは戦術的なプレーをするし、リーグ全体としても、汚いプレーやフィジカルな要素はそれほど多くない。試合のレベルが多少落ちても、試合勘を取り戻し、本来のスタイルをもう一度確立していく上では、好都合かもしれない。
とはいえ上位のクラブでは、やはり厳しいポジション争いが待ち構えている。スペインにしても、名のあるクラブにこだわるのは現実的ではない。
典型的な例が清武弘嗣だ。彼はすばらしい才能の持ち主だし、サッカーにも実に真剣に取り組んできた。そして、さらなるステップアップを図るべく、セビージャに移籍した。この判断も間違っていない。セビージャは伝統と格式のあるクラブで、優秀な選手も揃っている。スタジアムも見事だ。
しかし、その分だけポジション争いは厳しくなってしまう。本人がいかに好調を維持していても、外的な要因で出場機会を与えられなくなるケースもある。
ならば香川に関しても、ドイツの別のクラブで、活路を見出していったほうがいいのではないだろうか」
――仮に下位のクラブにいくとして、しっくりくるチームは見つかるでしょうか? 香川はトップ下でチャンスメイクをする古典的な10番タイプではなく、スモールスペースを巧みに突いていく、新しい世代の10番です。香川の才能を活かせるクラブが、ブンデスリーガの下位のチームや、ドイツの2部リーグにあるのでしょうか?
「その点については、まったく心配していない。
たしかにJリーグの場合は、多くのチームが似たような戦術を採用しているが、ブンデスリーガは戦術的な多様性にあふれているし、新たな戦術でアドバンテージを確立しようとしているクラブが複数ある。
事実、そういうクラブのスカウトの間では、香川の評価はかなり高い。
今でこそ自らのプレースタイルを見失っているが、本来の香川は、トップ下のポジションからチャンスメイクをするのはもちろん、サイドから相手を崩したり、バイタルエリアの狭いスペースにボールを呼び込み、決定的な仕事をすることもできる選手だ。こういう戦術的な柔軟性や、プレーの枠の広さは大きな魅力の1つになっている。
さらに言うなら、ドイツのクラブ関係者の中には、まさに香川のようなプレーができる10番が欲しいと口にする人間もいる。だから香川は、もっと自分に自信を持っていいんだ。時間をかけて試合勘を取り戻していき、本来のポテンシャルさえ発揮できれば、ブンデスリーガの1部でも2部でも、必ず再び活躍できるようになる」