猛牛のささやきBACK NUMBER
金子千尋を巡る三角関係に終止符を。
伊藤光の座を狙う若月健矢の責任感。
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byKyodo News
posted2017/03/01 08:00
2016年はオリックス捕手陣で最も多くの試合に出場した若月健矢。エース金子とのコンビを確立すればその地位は確かなものになる。
マスクをかぶった全試合を見直して気づいたことは?
オフの間に若月は、昨年の自身のリードの映像を全試合見直し、改めて自分の課題をあぶりだした。
「僕は特にランナーが一、三塁の場面での被打率が高いんです。盗塁されたくもないし、三塁にいるから後ろにそらしたくもないし、ということで、結果、逃げちゃってたのかなと。外のまっすぐで安全に行ってしまっていた。例えば、(盗塁されて)二、三塁になっても、次のバッターを歩かせて満塁で勝負してもいい。そこまで考えられるようにならないと」
ピンチの場面でも自信を持って変化球のサインを出すため、ボールを止める技術やスローイングは昨秋以降、徹底的に磨いてきた。今年の宮崎キャンプでは手応えをのぞかせた。
「今、紅白戦などではランナーがいても変化球を要求できていますし、シーズンが始まってもこれができるようにしたいですね」
シート打撃当日に「サイン変わったよ」と言われ……。
ブルペンで調整を続けていたエース金子は、2月22日のシート打撃で今年初めて打者に対して投げた。その時マスクを被ったのは若月だった。
前日までに金子の多彩な球種すべてのサインを思い出し、準備を整えていたが、当日の朝、金子に「あ、サイン変わったよ」と言われ、「えっ……」と一瞬固まった。
「『これがこうで、これはこれ』と口頭で伝えられて。金子さんはいっぱい球種があってサインが8個か9個あるから、必死で覚えましたよ」と苦笑する。
「でもそういう記憶力はあるんです。勉強はできないんですけど(笑)」
シート打撃は試合を想定し、1回に打者3~5人に対し15球ほど投げると、一旦ベンチに引き上げ、5分間のインターバルを置く。その度に若月は「何かありますか?」と金子に寄っていった。
打者の反応の確認や、「次はランナー入れてやりたいよね」、「そうですね」などと会話を交わす。走者を置いた場面も設定しながら、最終的に3回47球を投げた。
金子は、「いい球もあれば納得いかない球もあった」と淡々と振り返ったが、昨年まで投げていなかった左打者の内角へのツーシームにも手応えを得た様子で、充実した表情だった。