猛牛のささやきBACK NUMBER
金子千尋を巡る三角関係に終止符を。
伊藤光の座を狙う若月健矢の責任感。
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byKyodo News
posted2017/03/01 08:00
2016年はオリックス捕手陣で最も多くの試合に出場した若月健矢。エース金子とのコンビを確立すればその地位は確かなものになる。
捕手によって、サインの出し方の癖が違う。
次のチャンスは、本拠地最終戦となった9月29日の楽天戦。先発した若月は、引退試合となった小松聖(現オリックス二軍投手コーチ)が打者1人と対戦した後、マウンドに上がった金子を6回途中までリードした。
1回表の金子は、しかめっ面で、マウンドから若月のサインをにらみつけるように見ていた。新参者のリードが気に食わなかった、というわけではなかったらしい。
「単にサインが見づらかったんです。ずっと、光の指のサインで慣れていたので。人それぞれ指の長さも違うかもしれないし、出し方の癖がありますから」と試合後、金子は明かした。
ベンチに戻ってから若月に伝え、改善されたため、2回以降しかめっ面は見られなくなった。
回の途中から登板したこともあり、初回こそもたついたが、2回から5回までは、金子が普段あまり使わないカーブを多用して打者を翻弄し、少ない球数でアウトを重ねていった。ただ、6回は1アウトから連打や四球で4点を奪われ、金子はマウンドを下りた。
ランナーが出た時の「偏り」が修正点。
鈴木郁洋バッテリーコーチは、試合後こう分析した。
「緩い球をうまく使って、若月らしい色を出して、バッターの反応をしっかり見て配球していたし、光とは違った感じが出ていたけど、あの回(6回)だけがね。もちろんキャッチャーだけのせいじゃないけど、ランナーを出した時の若月の攻め方がちょっと偏っていた。そこがあいつの一番の課題。
ランナーがいない状態、ピンチじゃない状態ではバッターの反応を見ながらうまくリードできるけど、1点を惜しむのかなんなのか、ランナーが出ると少し偏ったリードになり、ポンポン連打が出てしまう」
若月自身も、「5回までは自分の思った通りいけたんですが、6回にランナーを出して、ちょっと余裕がなくなってしまいました。一塁が空いていたので、もっといろんなことを考えられたのに。もったいなかった」と悔やんだ。
「怖さを覚えた1年だった」と言う若き正捕手候補の、いい部分と課題の両方が出た試合だった。