“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
欧州クラブに挑戦する18歳の光と影。
渡邊凌磨、ブンデスでの今を語る。
text by

安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2017/02/28 07:00

インゴルシュタットは2004年に誕生した新しいクラブ。昨季から初めて1部で戦うことになったこの若いチームで、渡邊は居場所を見つけることができるか?
海外で1人になって、徹底的に自分と向き合った。
2017年の年明け。私は彼に会いにインゴルシュタットへと向かった。
クラブハウスのロビーで待ち合わせをすると、そこにやってきたのは、精悍な顔つきになって、身体が一回りも二回りも大きくなった1人のプロサッカー選手だった。
私は彼を高校時代から取材している。静かにゆっくり話をする姿勢こそ昔と変わらなかったが、身体回りと顔つきは劇的に変化していた。
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「最初は言葉も一切分からないし、ピッチコンディションも日本と全然違って、本当にすべてに戸惑いました。例えば、練習でのパス回しは問題なく出来るけど、フルコートになった時、『俺、全く試合に入れて無い……』と感じるくらい、戸惑いましたね」
インタビューが続くなか、彼はここに来た当初のことをこう振り返った。
「海外で1人になって自分と向き合ったことで、『どうすればここで成長出来るか』をしっかりと考えることが出来たんです。ここでは24時間365日、すべてにサッカーに集中出来る環境が整っていた。日々の練習の中で、これは通用する、これはこのままではダメだとか敏感に感じ、考えていくことで徹底的にサッカーに打ち込むことが出来た。その発見と対策の毎日が凄く楽しくなっていったんです。日本では気付くことが出来なかった多くのことに気付けて、今は『若いうちにこっちに来て良かった』と心から思いますね」
「日本にいたら……」と考えてしまう自分が辛かった。
昨季途中からではあるが、徐々にトップチームの合宿や練習にも参加するようになった。まだトップチームでの試合出場こそ無いが、練習はトップチーム、試合はU-23チームという日常を送っている。
「残留争いしているチームとは思えないほど、みんな上手い。今の(ブンデスリーガでの)順位が不思議なくらい。トップでの練習は凄く刺激になるし、成長を実感出来ますね。ただ、最初の1年は本当にキツかったです。それこそ日本での環境と比べてしまう気持ちが強かった。『日本にいたら……』と考えてしまう自分がいた。正直、『俺ってただの留学生なのかな』と思ってしまうときもあったし、そう思っていること自体が辛かった」