プレミアリーグの時間BACK NUMBER
レスターはラニエリのクビを切るか。
降格危機で試されるクラブの品格。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byGetty Images
posted2017/02/11 11:30
昨季はあんなにも輝いていたラニエリの飄々とした表情も、今季は心なしか頼りない。それでも解雇はあまりにも……。
責任の一端はもちろんラニエリ自身にある。
勝負の世界では、情に流されて「頭」ではなく「心」で物事を判断すると痛い目に遭うケースが多々ある。開幕から半年が過ぎても上昇傾向が見られないまま、残留争いに巻き込まれているチームの監督という見方をすれば、たしかに今季のラニエリに解雇が噂されても仕方がない。当人は、「洋上でウィンドサーフィンをしているようなものだから」と、冗談交じりに心配無用をアピールしているが、群れをなす鮫の頭上を、風に乗って滑走できているわけではないのだ。
その責任の一端はラニエリ自身にもある。エンゴロ・カンテというカウンターのキーマンを引き抜かれたチームについて、岡崎慎司が「まだ対応策を模索中なのかもしれない」と説明したコメントは、英国メディアでも盛んに報じられた。そのような状況で、先発メンバーやシステムを変える采配が選手たちを困惑させた感は否めない。
攻めの姿勢を強めた開幕当初の戦術は、手前の盾を失った最終ラインの脆さを露呈して裏目に出たように思える。前線から中盤に加勢できる岡崎の先発機会が少ない状況を歯痒く感じる時期もあった。今冬の移籍市場で、即戦力となれるCBの獲得に力を入れなかった点にも疑問は残る。
奇跡を起こした英雄と、ただの降格候補は違う。
とはいえラニエリは、抜群のスピードを持つジェイミー・バーディーの本格的CF起用、オーソドックスだが効果的なカウンター主体の4-4-2システムの基本化と、限りある戦力を最大限に生かすための采配により、奇跡以外の何物でもない優勝を実現した参謀長だ。
同時に持ち前の情熱、謙虚な姿勢、そしてユーモアで万人の心を揺さぶった主人公でもある。その昨季プレミア優勝監督を、まるで単なる降格候補を率いる監督のように扱う考え方には賛成しかねる。
それだけに、マンUに敗れてから48時間足らずで発表された、レスターが公式に出したラニエリ完全支援の声明は歓迎できたし、早々に出すべきだと思ってもいた。チーム内に噂された不穏な空気があるとないにかかわらず、フロントが指揮官への「揺るぎない支援」を表明したとなれば、選手たちはラニエリ体制下での降格回避に向けて腹を括りやすい。
声明文は後任探しを進めるための時間稼ぎだとするシニカルな見方もあるが、タイ人オーナーがレスターまで飛んでラニエリ本人にメッセージを伝えたのだから、純粋な支援の意思表示と理解して差し支えないだろう。