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イチローの伝説のバット、誕生秘話。
尋常ならざるこだわりの果てに……。
text by
Number編集部Sports Graphic Number
photograph byYukihito Taguchi
posted2017/04/17 08:00
イチローが持つと、まるで侍の刀のようにも見えるバット。元の素材である角材1000本から、約1ダースほどしか取れない貴重なバットだそうです。
イチローも名和さんも、ここがゴールだと思っていない。
イチローの要求は常に厳しく、これまでに何本か「これはダメですね」と言われたこともある。その度にどこが悪かったのか意見を交わし、イチローの求める質に近づける作業を繰り返していく。
「いつも発送するギリギリまで、『このバットで本当に大丈夫かな』と張り詰めた気持ちでいます。シーズンオフの打ち合わせでご満足いただけたことが確認できるとホッとしますが、そこから次のシーズンに向けてもっと質の高いバットを提供するための戦いが始まるのです」
取材の最後に、名和さんは目の前でイチローモデルのバットを1本作ってくれた。
丸棒をバット削り機にセットして、大小のカンナで削り始めてから20分。熟練の技であっという間に見本と同じ太さ、形状のバットが誕生した。
実は、削る作業よりも、むしろ丸棒をコンコンと叩きながら選んでいくことに時間を費やしていた。
その熱心かつ丁寧な仕事ぶりが、偉業達成の一翼を担ったことは間違いない。
「たまたま私が担当しているときに、節目が来たというだけのことですから。こうした特別な経験をさせてもらって、イチローさんにはありがとうございますと言いたいですね」
イチローと同様に、名和さんももちろんここがゴールだとは思っていない。
「私は会社の定年まであと10年ちょっとですが、イチロー選手が野球を続ける限り、いつまででもバットを作り続けるつもりでいます」
(2016年8月26日 Number臨時増刊号「工場潜入レポート イチローバットができるまで」より)