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イチローの伝説のバット、誕生秘話。
尋常ならざるこだわりの果てに……。
text by
Number編集部Sports Graphic Number
photograph byYukihito Taguchi
posted2017/04/17 08:00
イチローが持つと、まるで侍の刀のようにも見えるバット。元の素材である角材1000本から、約1ダースほどしか取れない貴重なバットだそうです。
「材料をよく見ておかないといけないよ」
「最初はバットの原材料となるアオダモの丸棒を、乾燥させるために組んで積む作業から始まりました。その頃によく久保田さんから言われたのは、『材料をよく見ておかないといけないよ』ということでした」
それは、材料の状態からいかにバットの完成形をイメージできるかという訓練でもあった。
「丸棒は仕入れたときに、だいたい1mの長さがあります。その中でも先端で作るのか根元で作るのか、1mのうちのどこで作れば一番いいバットになるのかというのを見極める力が養われました」
やがて自ら選手を担当するようになり、セ・リーグ担当として進藤達哉(元横浜)らのバットを作った。
「当時の進藤選手は、マシンガン打線の一角として活躍されていました。やはり担当した選手が打つと嬉しい気持ちになりますが、同時に今の調子を維持してもらうためにもいいバットを提供し続けなければいけないなと、そういう緊張感もありましたね」
テレビで野球中継を見るときも、気になるのは選手がバットを違和感なく扱えているかどうか。
「私たちが一番大切にしているのは、選手のバットに対する要望を忠実に再現することです。選手に意見を求められたら答える場合もありますが、基本的に自分の考えをバット作りに介入させたりはしません」
イチローのバットを作るプレッシャーと喜び。
師匠の久保田さんが60歳を過ぎた頃、名和さんはいつかイチローのバットを自分が担当する日が来るのだと覚悟を決めた。それは大きなプレッシャーであったが、同時に喜びでもあった。
「イチロー選手からは『年間40本くらい、ゲームで使えるバットが欲しい』と言われています。そのために毎年80本から90本ほどのバットをお渡しして、その中からさらに厳選して試合に使ってもらっています」