オリンピックへの道BACK NUMBER
渡辺一平は北島康介の系譜を継ぐか。
2分6秒台で世界新、その潜在能力。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAFLO
posted2017/02/06 07:00
世界新記録を伝える電光掲示板の前で笑顔の渡辺。リオ五輪から着実に成長していることを証明した。
五輪準決勝で新記録樹立も、決勝で落ちたタイム。
そして迎えた、勝負種目の200m。予選を全体の8位で通過すると、準決勝で会心の泳ぎを見せる。タイムは2分7秒22。オリンピック新記録をマークし、全体の1位で決勝へ進んだ。メダルへの期待が高まる中、迎えた翌日の決勝、だが、2分7秒80と準決勝よりタイムを落とし、6位にとどまった。
「すごく、悔しいです」
レースから引き上げたあと、渡辺は涙を流した。決勝は力みがあり、伸びやかな泳ぎができなかった。
「決勝という舞台はプレッシャーもあったし、分からないところで力が入ったんじゃないかと思います」
渡辺は振り返った。取材を終えて引き上げたあとも、涙は止まらなかった。金メダルを獲得した選手のタイムは、2分7秒46。渡辺が準決勝で出したタイムに劣る。手にすることができていたかもしれない金メダルだった。
悔しかった。
「オリンピックの借りはオリンピックでしか返せません」
思えば、メダルへの意識はどこまで強かったのだろうか。“メダルを獲れたら”と“メダルを獲る”では大きく異なる。
「オリンピックの借りはオリンピックでしか返せません」
その言葉の通り、雪辱を誓うと、帰国後は精力的に筋力アップに取り組んだ。特に脚力のアップを心がけ、スタートやターンの蹴りが強さを増した。数々の大会に出場し、そのときどきの言葉も以前にはない力強さが加わった。
そして、年が明けての大会で、鍛錬の成果と持ち前の後半の泳ぎがかみ合って、驚異のタイムをたたき出したのである。
本来備えていた能力はあるだろう。それを引き出したのは、初めての大舞台での悔しさを忘れることなく、無駄にすることなく、糧にできたことだ。
そうさせたのは、周囲の環境もある。