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福原愛が五輪直後に語った本心。
「胸にこみあげたのは、安堵感だけ」 

text by

城島充

城島充Mitsuru Jojima

PROFILE

photograph byKaoru Watanabe/JMPA

posted2017/01/15 07:00

福原愛が五輪直後に語った本心。「胸にこみあげたのは、安堵感だけ」<Number Web> photograph by Kaoru Watanabe/JMPA

リオ五輪の全試合を終えた福原愛は、カメラの前で涙を見せた。しかし、彼女を「泣き虫」という人はもういないはずだ。

エッジボールでの敗戦後、悔しさを噛みしめて。

 そして2大会連続の決勝進出をかけたドイツ戦。オリンピックに棲む魔物は、残酷な結末とともに福原の前に姿を現した。

 2ゲームオールの大接戦になった最終5番手のハン・イン戦。9-10とマッチポイントを握られた後、ハン・インが体勢を崩しながら返したボールは卓球台のエッジをかすめ、福原の視界から消えた。

 主審は試合終了を告げたが、エッジではなく、サイドにボールが当たっていれば福原のポイントになる。福原は試合続行を信じたが、ジャッジは覆らなかった。

 ミックスゾーンに姿を見せた福原は気持ちを落ち着かせ、報道陣に「負けの原因はすべて私にあります」と、いつもより低い声で心境を語った。「次は今日の悔しさをすべてぶつけたい」と。

石川と伊藤の2人を負けて帰らせたくなかった。

 その夜、選手村の部屋で一人になった福原はさまざまな感情と向き合った。

「右足よりも、精神的な痛みのほうが大きかった」という状況で求められたのは、敗北を受け止め、前を向く心の強さである。福原は過去のオリンピックの記憶をたどり、その時々の感情を今の自分が置かれている状況に重ねた。

 15歳で出場したアテネは、3試合しか出場できず、オリンピックの雰囲気さえつかめず終わった。北京は韓国とのメダル決定戦に敗れ、力不足を痛感した。そんな苦い思いを振り返るうち、胸を支配したのは、2人のチームメイトに対する思いだった。

「3人のなかで、オリンピックでメダルを獲得できずに帰国する悔しさを知っているのは私だけなんです。2人に同じ思いをさせたくなかった」

 とりわけ、ドイツ戦の1番手に抜擢され、最終ゲームを9-3でリードしながら敗れた伊藤の心情を福原は思いやった。

「もし、メダルを持って日本に帰れなかったら、美誠は絶対に嫌なしこりを胸の底に残してしまう」

 翌朝、福原はメンバーの誰よりも早く練習場に姿を見せ、シンガポール対策の練習を始めた。

【次ページ】 かつての天才少女の、心が満たされた瞬間。

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