Sports Graphic Number MoreBACK NUMBER
福原愛が五輪直後に語った本心。
「胸にこみあげたのは、安堵感だけ」
text by
城島充Mitsuru Jojima
photograph byKaoru Watanabe/JMPA
posted2017/01/15 07:00
リオ五輪の全試合を終えた福原愛は、カメラの前で涙を見せた。しかし、彼女を「泣き虫」という人はもういないはずだ。
贔屓されたり、特別な待遇に恵まれたわけではなく。
それでも、福原は焦らなかった。治療とリハビリを繰り返しながら、ワールドツアーで驚異的な粘りを発揮、石川とともにシングルスの代表切符を手にしたのだ。今年2月にクアラルンプールで開催された世界選手権(団体戦)では初めてキャプテンを務め、日本を準優勝に導いている。
「積み上げてきたものをケガで失ってもまた、元の場所に戻ってこられた。誰かに贔屓されたり、特別な待遇に恵まれたわけではなく、自分自身の力でこの場所に戻ってこられた自信が、私を変えてくれました」
そしてその自信は、これまでとは明らかに違う、福原愛の姿につながっていく。
「愛、目つきがいつもと違うよ。整形でもしたのか?」
親しい関係者がそう声をかけるほど、リオのコートに立った福原の視線は鋭く、一切の迷いや不安を感じさせなかった。
“神がかり的”と表現されたプレーの代償。
シングルスの初戦でダニエラ・モンテイロドデアン(ルーマニア)をわずか18分で下すと、苦戦が予想されたカットマンのリ・ミョンスン(北朝鮮)も30分もかけずに圧倒した。ロンドン大会銅メダリストのフェン・ティアンウエイ(シンガポール)との準々決勝も、多彩な技術を持つフェンが変化をつけてくるボールをことごとく返し、付け入る隙を与えなかった。
究極の集中力と、的確な予測と判断、瞬時の反応で理想の打球点に到達するフットワーク……。準決勝で連覇を狙うリ・シャオシャ(中国)に敗れるまで1ゲームも落とさずに勝ち進んだ福原のプレーは、日本の女子選手が国際舞台で披露した過去最高のパフォーマンスの一つだったのではないか。
だが、日本のメディアが“神がかり的”と表現したプレーの代償は、決して小さくなかった。