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笑わない男・小笠原満男が笑った日。
現チームの礎を作ったあのタイトル。
text by
寺野典子Noriko Terano
photograph byKiichi Matsumoto
posted2017/01/06 11:00
シーズン終盤に鹿島が得た経験は、他のJクラブが体験したことのないものだった。それはどんな財産になるのだろうか。
小笠原が満面の笑みを見せたタイトルは……。
「1年を通じて安定した戦いをして、勝ち点を積み重ねたのは浦和レッズです。敬意を表したい」
12月20日に行われたJリーグアウォーズで小笠原はそうスピーチしている。
ファーストステージで優勝したものの、セカンドステージでは失速。その悔しさは彼の心のなかに深く刻まれているのだろう。だからこそ、「もっと強く」と願うのだ。
そして彼自身も、90分間フル出場する試合が少なくなった。そんな自分にも、小笠原は奮起を促す。
「自分としても最後までピッチに立てるように、もっともっと勝利に貢献出来るようにそこを目指していきたい」
彼が満面の笑みでタイトル獲得を喜んだのは、2015年のナビスコカップのときだった。
世代交代が進み、新しい鹿島アントラーズにとって「タイトル獲得」の重要性を痛感していたのが小笠原自身だった。だからこそ、ガンバ大阪を下したその決勝戦後は、わずかな安堵感を漂わせているように見えた。
「ここから始められる」という手ごたえがあったのかもしれない。そして、「ナビスコカップを獲ったことがひとつの自信になった」と昌子も話している。
勝利を逃がした時の苦さを、鹿島は決して忘れない。
鹿島の凄みは、Jリーグ発足から20年あまり、常に勝ち続けていることだ。もちろん、タイトルから遠ざかる時期もあったし、成績が低迷することもある。しかし、再び、その座に返り咲く。若く頼りなさそうに見えた選手が、気がつけば主軸として戦う鹿島の“戦力”になっている。
ジーコがもたらした哲学を、クラブは大切に守ってきた。そして、クラブの長い歴史を橋渡ししているのが、小笠原満男や曽ヶ端準の1998年加入組の選手だろう。もちろん、コーチとして加入した柳沢敦や羽田憲司など、レジェンドたちの存在も大きい。
そして、彼らは継続の難しさも身をもって知っている。小笠原が何度も「これからが大事」と繰り返した意味がそこにあるような気がする。
一度味わった勝利の美酒が、再びそれを求めるモチベーションになる。そういうサイクルのなかで、鹿島の伝統は築かれてきた。
なぜ勝てるのか? それは、美酒と同じように、勝利を逃したときの苦さを知っているからだ。そして彼らはそれを忘れない。
わずかな違いが勝者と敗者を分ける。
だからこそ、細部にまで至るこだわりは試合だけにとどまらず、練習から始まっている。
それらを当然のように繰り返し、積み重ねているから、鹿島アントラーズは進化を続けるのだ。