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笑わない男・小笠原満男が笑った日。
現チームの礎を作ったあのタイトル。
text by
寺野典子Noriko Terano
photograph byKiichi Matsumoto
posted2017/01/06 11:00
シーズン終盤に鹿島が得た経験は、他のJクラブが体験したことのないものだった。それはどんな財産になるのだろうか。
昌子・植田「レアル戦のようなことは繰り返さない」
カッと熱くなった振る舞いをしながらも、彼は冷静だった。その直後、レフリーのジャッジに川崎の選手たちが不満をぶつけている最中、小笠原はボールボーイにボールを要求し、素早いリスタートを試みた。そのプレーは認められなかったが、この決勝戦に懸けるキャプテンの想いがチームメイトに響いた瞬間だったはずだ。
「満男さんは決勝になると凄みが増すんですよ」と赤崎も話していた。
そして一進一退の攻防のなかで、42分に山本脩斗が鹿島に先制点をもたらした。が、ハーフタイムを挟んだ54分、川崎の小林が同点弾を決め、さらに攻勢を強めた。しかし、曽ヶ端準を中心とした鹿島のDFラインは硬く、逆転することが出来なかった。
1-1で迎えた延長戦。鹿島の昌子源と植田直通のCBコンビは「レアル戦のようなことは繰り返さない。俺たちが守れば勝てる」と確認し合っていた。94分に勝ち越し弾を決めた鹿島は、川崎の攻撃を跳ね返し続け、試合の終了の笛が鳴るまで戦った。
「満男さんやソガさんは、疲れていようと、どんな痛みがあっても練習に参加して、その態度や背中でいつも示してくれる。最後の最後でチームの差として、それが出たように思う」と赤崎。小笠原の一言がチームをひとつにまとめたとも語った。
小笠原が試合前の円陣でチームに話したこと。
天皇杯決勝戦の舞台に立った赤崎は、チャンピオンシップでは3試合すべてベンチスタートだったが、クラブワールドカップでは初戦で途中出場からゴールを決め、その後2試合で先発した。
「円陣を組んだとき、満男さんは『11人だけじゃなくて、それ以外のメンバーやベンチ外のメンバーがしっかりやってくれるから、あそこまで行けたし、今回もここまで来れた』と言ってくれた。あの一言で、試合に絡んでないメンバーも救われた部分がある。(天皇杯決勝の)今日もチーム全員で戦えた。このいい雰囲気の中で、年末を乗り切れた部分はあるので、そういうところはこれからも引き継いでいかなくちゃいけない」
天皇杯を受け取った小笠原は写真撮影のとき、そばにいた石井監督を呼び寄せ、カップを渡した。集合写真の中央で、後ろの選手たちに配慮したのか、少し遠慮気味な姿勢で石井監督がカップを掲げる。なんとも微笑ましい光景が、激闘の1カ月間を締めくくった。