マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
日本一地味な1億円プロ野球選手!?
谷元圭介は、167cmから投げ下ろす。
posted2016/12/16 11:30
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
NIKKAN SPORTS
その頃の愛知の大学リーグは、愛知学院大が強かった。
2007年、2008年、今から10年ほど前のことだ。
小川優(岐阜・東濃実業高)という1年生の実戦力右腕がまさにすい星のように現れて、入学してすぐの春から、3シーズンで16連勝の快進撃をやってのけていた。
さらに、ライバルと目されていた愛知大には祖父江大輔(現・中日)という本格派右腕が、こちらは150キロ前後の快速球を投げまくって一歩も退かない勢いを示していた。
「そりゃあ、小川の低めに伸びてくるようなストレートや両サイドのコントロールもたいしたもんだし、祖父江の快速球だって、ベンチから見てると見えないぐらい速い。でもね、打ちにくさだったら谷元だ、ってウチの選手たちみんな言ってるし、ほかのチームの選手に聞いても、やっぱり対戦して嫌なのは谷元だって言うんですよ」
いつもは控えめな話しぶりの中部大・善久(ぜんきゅう)裕司監督(現・総監督)なのに、話が前年までのエース・谷元圭介に及ぶと、途端に座り直して口調も変わってきた。
「特に、相手が強くなるほどいいピッチングができる。オレが抑えずに誰が抑えるんだ! みたいなね。本当のいいピッチャーって、谷元みたいなピッチャーのこと言うんじゃないですかねぇ……」
すでに、社会人野球へ進んだ自慢の教え子に思いを馳せて、こういうときの指導者はすごくいい顔をするのだ。
走者を一塁に出してからがしたたかな投手だった。
仕事の都合があって、その当時は愛知大学リーグの試合にたびたび足を運んでいた。
愛知学院大・小川優、愛知大・祖父江大輔の若々しい快投も何度も目にしたし、善久監督イチ推しの中部大・谷元圭介のなかなか負けない奮投もよく知っているつもりだ。
走者を一塁に出してからが、したたかなピッチャーだった。
送りバントには、打者が構えたバットに渾身のストレートをぶつけてきた。気迫にひるんだバットからはね上がった小飛球で、何度併殺を奪ったことか。打ちにいけば、やはりグリップの近くを速球で襲い、バットを粉砕する場面も何度も見せつけられていた。