ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
松山英樹が石川遼に「行っちゃえ!」。
2人がゴルフ少年に戻っていた4日間。
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byAP/AFLO
posted2016/12/15 08:00
周囲は松山英樹と石川遼をライバル扱いしたがるが、それ以上に2人は同じ道を歩む「同志」なのだ。
かつては、攻めるゴルフが石川の代名詞だった。
オルタネート形式は、スコアを崩さないようにリスクを最小限にするのが定石。だが、短いクラブを使うのが必ずしもリスクを軽減することにはならない。心に迷いがあるショットならば、クラブが短かろうが、それは大きな危険性を伴う一打になる。
松山と一緒に過ごした時間を振り返り、石川は言った。「本当に自分に足りないものをたくさん見られたと思う。これだけ英樹と練習して、試合での英樹を見ることはなかった。本当に良いものを見せてもらった」と。そして「自分はコースに対して委縮していたところがいっぱいあった。でも英樹は、調子が悪いと言いつつも攻めていた」と続けた。
15歳で出場したプロツアーデビュー戦で優勝してから日本ツアーを席巻した数年、アグレッシブに攻めるゴルフが石川の代名詞だった。本人は「あの頃の僕はそれしかできなかった。逃げるとか守る術を知らなかったから、そう言われるのはちょっと違和感があった」と言うが、その恐れを知らぬプレーぶりに人々は夢を見た。
「行っちゃえ」という相棒の声が、石川を甦らせるか。
齢を重ねて成功体験ばかりでなくなると、守る術と技が身に付いた。それでは優勝に届かず、「攻める気持ちを忘れてはいけない」と何度も原点に立ち返っては、いつのまにか弱気の虫が顔を出す。松山に水をあけられた近年は、その繰り返しだ。
だが隣の頼もしいパートナーの姿を見て、ささやきを耳にして、もう一度気づかされた。「それが世界のトップなんだと、改めて思いました」。コイツらは、逃げない。世界ランク6位の目線は、気持ちの上では石川のあの頃と同じ高さだった。
窮地で逃げないため、攻めるためには、ただ考え方を変えればいいという安直なものではない。委縮しない強いハートを裏付ける高い技術力が、無論必要だ。
コンビを解消し、石川も再び本来の戦いに臨む。まずは米国でシードをキープするべく厳しいサバイバルレースが待っている。
「行っちゃえ、行っちゃえよ」――。
心で響く相棒のその声に「よし、行こう」と迷いなく応えられる瞬間。その積み重ねが、飛躍への道筋になるかもしれない。
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