ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
松山英樹が石川遼に「行っちゃえ!」。
2人がゴルフ少年に戻っていた4日間。
posted2016/12/15 08:00
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph by
AP/AFLO
「よし、行こう。やろうよ」
短い合図の声を発するのはいつも松山英樹だったろうか。その隣を口元に笑みを浮かべた石川遼が歩く。人もまばらなコースの昼下がり。2人は連日、互いに勝負を挑んだ。
オーストラリアで行われた11月のゴルフワールドカップ。ともに米国PGAツアーで戦う同学年の2人がタッグを組んだ。松山と石川は大会の前週には一緒に初夏の南半球に飛び、出場国のうち一番乗りで調整を開始した。
ギャラリーが入場する前の事前練習日。朝からコースチェック、それぞれが取り組む個人練習を終えると、その時間はやってきた。
会場の18ホールの裏手にある、アプローチ練習場。バンカーが周囲にちりばめられ、数カ所にカップが切られたグリーンは、彼らの絶好の遊び場だった。松山のトレーナーがティと狙うべきカップを即席で設定し、2人がチップショットとパットで競い合う。10~40ヤード程度の、さながら“パー2”のホールの連続。
毎ホールで勝者がガッツポーズを見せては、膝を叩いて悔しがる。それぞれのキャディを伴ったダブルスマッチも行われた。互いの凡ミスを、ゲラゲラ笑い合うこともあった。
「9ホール勝負ね」という最初の約束は信用できない。10ホール目、15ホール目……と延長戦は続いていく。そばで会場設営に汗を流していた男性は「あいつら、いつまでやるんだよ。次、何番ホールだよ」と両手を広げて呆れていた。
日本で見世物にしたら、それなりにお金が取れるのではないか。そんな、こちらが抱く邪念など、ふたりはつゆ知らず。
石川「最高ですよ」松山「フツーに楽しいもん」
「こんなね、世界トップクラスの選手と勝負できるなんて最高ですよ」(石川)
「フツーに楽しいもん。アプローチ、パットはいいよね。1時間でも2時間でもやっちゃう。俺たちでティとカップを決めたら、もっと“えげつない”ホールになるよ」(松山)
「『この種類の球(ショット)で、ここに落とすしかないじゃん!』みたいなね」(石川)
「そうそう。『こんなの無理、無理……』って言いながら結局、やる」(松山)
ともに父からゴルフクラブを譲り受けた幼少期から、彼らは目の輝きを変えぬまま年を重ねただけ。見る者にそう印象付ける時間だった。