ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
引退ゼリフは「まだ誰にも負けない」。
長谷川穂積が辿りついた最高の結末。
posted2016/12/13 07:00
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
AFLO
長らく日本のボクシング界をけん引してきた長谷川穂積が17年間の現役生活に幕を下ろした。
9日、神戸市内のポートピアホテルで開かれた記者会見。グレーのスーツ姿で現れた現役世界チャンピオンは「自分に対してこれ以上証明するものがなくなった」、「目標を達成して戦う理由もなくなって、前回以上の気持ちを作ることができなくなった」と引退の理由を明かした。
長谷川を初めてしっかり生で見たのは2004年10月、両国国技館で行われた世界タイトルマッチの前哨戦だった。鳥海純との技巧派サウスポー対決に判定勝ち。一発だけきれいに左ストレートを食らった場面を振り返り、「効いたように見えたところは、実際に効いていたと思いますよ」と明るく語っていたのが印象的だった。
無敵だった前半期と、敗北にまみれた後半期。
そして翌'05年、辰吉丈一郎を2度キャンバスに沈め、西岡利晃と4度対戦して王座を明け渡さなかったウィラポン・ナコンルアンプロモーション(タイ)と至高の12ラウンドを演じ、王座を奪う。
約1年後、'06年3月25日の神戸ワールド記念ホールでウィラポンを9回TKOで返り討ち。渾身の右フックでウィラポンがキャンバスに沈みゆくシーンは本当に美しかった。おそらくこのウィラポン第2戦は、長谷川のベストバウトに挙げる人も多いのではないだろうか―─。
長谷川の17年間の現役生活は、大きく前半と後半の2つに分けられると思う。絶対王者のウィラポンからタイトルを奪い、バンタム級王座を10度防衛し、2階級制覇も達成した前半期と、敗北にまみれ、5年5カ月にわたって無冠を味わった後半期である。いまとなってはこのキャリア後期こそに、長谷川穂積というボクサーの真骨頂があったように思える。