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引退ゼリフは「まだ誰にも負けない」。
長谷川穂積が辿りついた最高の結末。
text by

渋谷淳Jun Shibuya
photograph byAFLO
posted2016/12/13 07:00

9月の試合で、息子に抱え上げられた長谷川穂積は感傷的な表情をしていた。彼の「気持ち」は、この時もう傾いていたのかもしれない。
「まだ誰にも負けない」は最高の引退ゼリフでは。
記者会見で長谷川がサラリと言ってのけたセリフがある。
「前回の気持ちを作れれば、まだ誰にも負けない自信はありますけど、身体は作れるけど、気持ちを作るのはすごく難しくなってきている」
だから、引退を決断したのだと。
まだ誰にも負けない──。
引退するにあたり、これほど憎らしいセリフがあるだろうか。この言葉を口にするために、無冠の5年5カ月があり、9月のルイス戦があった。記者会見での長谷川は本当に満足しているように見えた。チャンピオンはプライドを取り戻し、余力を残し、心置きなくリングを降りるのだ。

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