イチ流に触れてBACK NUMBER
イチロー「バカな盗塁はしない」。
成功率81.4%、508盗塁に貫く信条。
text by
笹田幸嗣Koji Sasada
photograph byAFLO
posted2016/11/30 11:30
イチローはNPB時代に通算199盗塁を記録しており、2016年終了時点の日米通算盗塁数は707となる。これもまた球史に残る数字である。
「僕は成功率半分、という感覚ではいかない」
「僕はすべて揃っているでしょ。だって、揃っていなかったら、ここにいないから(笑)。どれか揃わなくなったら、いないでしょう(笑)」
ようやく反応したイチローにチャンス到来とばかりに矢継ぎ早に聞いた。「盗塁を積み重ねて行く難しさとは何か」と。するとイチローは信条を語った。
「僕はバカな盗塁は基本的にはしない。成功率半分(50%)という感覚ではいかない。走ればかなり(成功の)確率が高いというタイミングでしかいかない」
この時点でイチローの盗塁成功率は81.4%だった。歴代最多の1406盗塁を記録したリッキー・ヘンダーソン(元アスレチックス)の80.8%を大きく上回る事実をぶつけると、素直に喜びつつ、こんな言葉を付け加えた。
「そうですか。それはなかなかですねぇ。でも、リッキー・ヘンダーソンは無茶もかなりして走ったというイメージですよね。それで80%を超えるって、やっぱり彼は凄いですね」
無茶をしないのは身体へのリスクマネージメント。
500盗塁以上を記録した選手で歴代トップの成功率を残したのは、通算808盗塁のティム・レインズ(元エクスポズ)で84.7%だった。続いて668盗塁で83.3%のウイリー・ウイルソン(元ロイヤルズ)、557盗塁で83.0%のデイビー・ロペス(元ドジャース)、イチローの81.4%は歴代4位の高順位だった。
盗塁への信条を「無茶はしない」と語ったイチロー。この言葉は彼の野球観をよく表していると感じた。
'09年のWBCで日本を2連覇へ導いたのちに胃潰瘍で故障者リストに入ったことはあったが、イチローはこの16年間で身体的故障からDL入りしたことは一度もない。常に野球への準備を怠らず、怪我を未然に防ぐ体づくりに専念し、野球のために24時間すべてを使い切る姿勢は、究極の“リスクマネージメント”と言える。