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内山高志が36歳で選んだ現役続行。
誰にも相談せず、体と心に問いかけ。
posted2016/10/13 17:30
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
AFLO
悪夢のような王座陥落劇から半年。前WBA世界スーパーフェザー級スーパー王者の内山高志が12日、記者会見を開いて現役続行を宣言した。
2005年のデビューから無敗をキープし、日本人世界王者として最長となる6年3カ月も王座を守り続け、防衛テープを11まで伸ばしていた内山。36歳の元チャンピオンはどのように気持ちを整理して再起を決意したのか。そしてジェスレル・コラレスとの再戦に勝機はあるのか─―。
ボクサーが引き際を決めるのは難しい。団体スポーツのように、チームから契約を打ち切られるという、いわば引導と言えるものがないからだ。ましてや6年3カ月も世界チャンピオンに君臨し、その冠を一瞬にして失った内山である。
試合から1カ月半ほどたったときの取材で「続けるかどうかは50-50」と語っていたのは本心だったと思う。会見で内山は試合直後の心情をこう振り返った。
「負けた当初は、もうなんかちょっとダメなのかなとか、ひょっとして負けたことによって気持ちが落ちてしまうのではないかと思った。いままで気持ちを張って何とかやってきた。気持ちが落ちたときには体力も落ちるんじゃないかという心配もあった」
24歳で一度決意した「ボクシングをやることはない」。
“ただのボクサー”になった前王者は、ひとまず休養に努めた。最初に感じたのは「練習しなくていいって楽だな、プレッシャーがないって楽だな」という気持ちだったという。いつも応援してくれながら、なかなかゆっくり話せなかった友人や後援者と食事に行き、不義理にしていた人たちへのあいさつを重ねた。軽くではあるが、日々のランニングにも取り組んだ。
こうした生活を送り、内山は自らに「本当にまたボクシングがやりたいのか」と問い続けた。プロ入り前の2004年、アテネ五輪出場をかけたアジア地区予選で敗れたとき、オリンピックに人生のすべてをかけていた24歳は「もうボクシングをやることは絶対にない」と感じたという。グローブを固く握りしめることは2度となく、1人の社会人として人生をまっとうするつもりだった。しかし、数カ月もすると、とても抑えることができない、湧き上がるような感情に全身が包まれた。
「どうしてもまたボクシングがしたい」のだと。