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内山高志が36歳で選んだ現役続行。
誰にも相談せず、体と心に問いかけ。
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byAFLO
posted2016/10/13 17:30
内山高志が、リングに帰ってくる。9月には長谷川穂積が世界王者に返り咲くなど、ボクサーの選手寿命は延びている。
細心の注意で自分の心と体に問いかけた。
あのときのような感情に、自分は再び包まれるのだろうか。内山はそう考えたが、24歳と36歳で立つ人生の岐路は、おそらく多くの人間にとって同じではないだろう。ちょうどいい潮時だ、第2の人生を歩むべきではないか。周囲にそう考える人間がいなかったわけではない。母親は息子がやめるものと思っていた。続けるにしても、辞めるにしても、いずれにしても応援すると言ってくれる人たちが少なからずいた。ジム会長の渡辺均は次のように語る。
「再起するなら全力で試合を組まないといけない。同時に第2の人生を歩むならどういう人生がいいのか、という思いもあった。たとえばアマチュア資格を取得し、大学の監督になり、将来的にはオリンピックの総監督を務めるとか、アマチュアの連盟の幹部になるとか。内山ならそれができると思いましたから」
そうした周囲の声をすべて耳にしながら、内山はだれに相談することもなく、細心の注意を払って自身の心と体に“本当のところ”を問いかけ続けた。年齢はまったく関係なく、気力と体力が落ちたときが引退のときだと考えていたからだ。ランニングから負荷を上げ、7月にはジムワークを再開。このころになると「まだいけるな」という確かな感触を得るにいたる。
負けられないプレッシャーは、ボクシングの醍醐味。
そして悪夢のように、一瞬にして終わったコラレス戦の悔しさもふつふつとこみ上げてくるようになった。
「やっぱりボクシングがやりたい。そう思わせたのは、ああやって一方的にやられたまま辞めるというのが、悔いが残ったというのが相当大きかった。ただ単純に悔しい、リベンジしたいという気持ちが強かった」
プレッシャーがなくて楽だ、という気持ちにも変化が生じた。
「あとからわかったことですけど(チャンピオンとして)追っかけられているとか、負けちゃいけない、というプレッシャーはボクシングの一番の醍醐味なんだと感じました」
まだ暑さの厳しいころに、内山は現役続行の意思を固めたのだった。