ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
パッキャオはなぜ現役復帰したのか。
長谷川穂積も浸る「世界の中心」感。
posted2016/11/08 07:00
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
AFLO
今年4月の試合後に発した引退宣言を撤回したボクシング界のスーパースター、マニー・パッキャオ(フィリピン)が5日(日本時間6日)、米ラスベガスのリングで7カ月ぶりの試合を行い、WBO世界ウェルター級王者のジェシー・バルガス(米)に勝利して世界チャンピオンに返り咲いた。5月の選挙で母国の上院議員となり、12月には38歳を迎えるパッキャオ。彼はなぜリングに上がり続けるのか。そしてこの先、パッキャオはどこへいこうとしているのだろうか。
上院議員として多忙な日々はトレーニングの妨げとなり、37歳という年齢も不安材料だった。ひょっとするとかなりお寒い内容になるのではないか。そう心配した試合で、パッキャオは2回に左でダウンを奪う好スタート。その後も時折バルガスのパンチを食らいながらも最後まで足をよく動かし、ジャッジ1者が114-113と小差だったものの、残り2者は118-109という大差の判定勝ちを収めた。
この日のパフォーマンスを、どう評価すればいいのだろうか。米専門サイト「ボクシングシーン」によると、長年コンビを組んでいるトレーナーのフレディ・ローチ氏は「私は確信が持てないでいる。彼は(2回にダウンを奪って以降)バルガスをさらに痛めつけるチャンスが何度もありながらそうはしなかった」と辛口のコメントを残している。
パッキャオ本人が試合後、リング上のインタビューで「相手はカウンターを狙っていた。慎重に戦った」と振り返ったように、常にKOを狙い、気持ちいいほど思い切りパンチを打ち込むかつての姿は見られなかった。
穂積「年齢に応じた戦い方をしたと思う」
この日のパフォーマンスを冷静に解説したのは、9月に35歳で世界チャンピオンに返り咲いた長谷川穂積(WBC世界スーパーバンタム級王者)だ。「見た目以上にやりにくい相手だったと思いますけど、そこを勝つのはさすが。ちょっと信じられないですね」と前置きした上で次のように続けた。
「年齢に応じた戦い方をしたと思います。もう必要以上にいかないですよね。スタミナも考えてるし、パンチも警戒しているし。僕からしたらうまく休んで戦ってるなと思いました。それでいいと思いますね。歳いったら歳いったなりの戦い方を見つけて、それをマスターする。そこがトップレベルですよね。メイウェザーもそうですけど。それができない選手が負けていくんです」
ローチ氏やファンは不満が残ったかもしれないが、パッキャオは肉体の衰え、トレーニング一本に絞れない生活環境にうまく適応し“進化”を遂げたと見ることができる。それが長谷川の見立てだった。