“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
名門マルセイユは代表以上に過酷!?
酒井宏樹が醸す、非情のオーラ。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakuya Sugiyama
posted2016/09/09 11:30
マルセイユでの試合では、スピードのあるアフリカ系の選手に手こずっているという酒井。その厳しい場で鍛えられた技術は、必ず日本代表の力になるはずだ。
「僕も言葉では表現し辛い試合だった」
「1点を取るまでは、すべてがうまく行っていたのですが……そう簡単には行かなかった。最後はリスク覚悟で前に行くという形を取ったけど、点を取れなかったのは悔しい。特にラスト10分は相手が集中モードに入ってしまって、凄く厳しかった。あれだけ引かれるとクロスの出しどころが無かった。
もっともっと中に仕掛けても良かったのですが、90分間最後までスタート時の質を保てるような身体作りをして行かないといけないと思いました。いろいろ難しい試合で、僕も言葉では表現し辛い試合だった」
ヨーロッパからの移動の疲れも響き、コンディションが万全ではない自身のプレーも含めて、反省の弁を口にした。
マルセイユで体得した、酒井宏樹の「覚悟」。
到底納得の出来ない内容で、かつアジア最終予選の初戦を落とすという最悪のシナリオに、酒井の表情は曇っていた。だが、マルセイユの厳しさを味わった彼は、腹を据える術を身につけていた。
「『もう負けられない』ではなく、『全部勝たないといけない』という状況になった。皆さんの期待に僕ら選手は応えないといけない義務がある。どんな批判も受けながら、結果を追求して行く。前を向いて行く」
「次がある」という優しい言葉に決して甘えられないクラブ――。マルセイユで感じた“圧”は、彼の頭から妥協や楽観という言葉を消し去り、力強く前進するしかないという「覚悟」を作り出していた。
その覚悟はすぐにプレーで示された。
アジア最終予選第2戦のタイ戦。彼は立ち上がりから大きな存在感を放った。
中途半端なポジション取りをすること無く、サイドでイニシアチブを握れるように積極的に高い位置を取りながらも、逆サイドにボールが有るときは素早くDFラインに入ったり、帰陣を早くしたりと、攻守においてのプレーを明確にしていた。
さらに両サイドのバランスを図るポジショニングもよく、UAE戦ではズレていた本田との連携もスムーズだった。