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筒香嘉智、独占インタビュー。
「矢印をまとめる」究極の打撃を。
text by
日比野恭三Kyozo Hibino
photograph byYDB
posted2016/09/01 11:00
横浜スタジアムに何度もアーチを描き、ファンに歓喜を届ける筒香。その言葉からは求道者の雰囲気が漂う。
体の中は動いてます。でも、いろんな矢印が出る。
以前のコラムでも触れたとおり、インタビュアー泣かせの男である。危機感を確かめたい問いを一蹴し、自身のコンディションについて聞かれても独特の感性でこう応じた。
――7月には好調の要因を「体の中がよく動くようになった」と語っていました。今、その感覚はなくなってきている?
「いや、体の中は動いてますね。でも、いろんな矢印が出るので。その矢印をまとめるのが、まだ自分のものにはなってないですね」
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――矢印、ですか。
「これも口で言っても伝わらない感覚だと思います。僕がやってきたことをずっとやってきた人がいるとしたら、たぶんそれは伝わることですけど」
――ご自身の中では、その矢印がどっちに向いているとか、ばらついている、まとまっているという感覚があるわけですね?
「もちろんあります」
中のほうがピッチャーに入っていくイメージ、とは?
「体の中がよく動く」から「矢印」へ。新しいキーワードがまた一つ増えたわけだが、凡人に言えるのは、筒香には筒香にしか見えないものが見えているらしいということだけだ。
打席に入る前、相手投手のどこを見ているのかと聞いても、24歳はこんな表現を使う。
「特にここを見るというのはない。これもずっとやってきたことなのでなかなか伝わらないですけど、ピッチャーに入っていく。体がじゃなくて、中のほうがピッチャーに入っていくイメージですかね」
これぞと見さだめた道を独りただひたすらに歩き、極める。その信念の頑強さが、今の筒香をつくり出した。もはや彼の言葉や感覚に共感できる人間はいないのかもしれない。引き合いに出されることも多い松井秀喜という存在に何らかの影響を受けたかと問えば、「小さい時からすごいなと思っていた」と言いながら「僕は自分で思う道を、正しいと思ったことを続けてやってきた。他の人がどうとか、そういうのは全くない」と質問者の淡い期待をきれいさっぱり突っぱねる。