鉄棒での落下の前から戦いは終わっていた。

　大会を通じて苦戦していた「アドラー1回ひねり」をどうにか乗りきった後の「ヤマワキ」での落下。あまり見られない箇所での、意外なミス。

　加藤にとっては、五輪2大会、通算23演技目での初めての落下だった。最後は伸身新月面の着地を止めたが、13.900という厳しい採点が突き付けられた。

　加藤らしいハツラツとしたリズムを失っていた背景には、平行棒を終えた時点で沸き上がっていた、これまでにない感情が影響していた。

「もちろん、最後の鉄棒は何があるかわからない。けれど、僕が成功しても表彰台には上がれないと思った。寂しい気持ちになった」

　気落ちした時点で、戦いは終わっていた。

個人は二の次だったが、個人総合で悔しさを感じた。

　それでもすぐに前を向いていたのは、さすが体操ニッポンの金メダリストというべきだろう。

　停滞の要因を冷静に分析し、こう言った。

「団体ではなるべく15点台に乗せるという確実性を求められるが、個人総合や種目別になると16点台や15点台後半という高い点をコンスタントに取れるような、爆発的な種目がほしい。そういう意味で、4年間を団体に懸けすぎたことで、取り残されたという思いがある」

　とはいえ、団体に懸けた気持ちに後悔の念が一切ないということは強調した。

「ずっと航平さんとみんなで、団体金メダルを目指してやっていて、それが達成できた。個人は二の次だった。だから、そこに悔いはない。でも個人総合に出たことで、こうやって悔しい気持ちが出て来た。これからはもっと難度を上げていきたい。代表に入りたいという気持ちではなく、代表に入ってからどうするかという気持ちで頑張っていきたい」

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