リオ五輪PRESSBACK NUMBER
20歳、142cmの女子体操の主将。
寺本明日香、個人8位入賞の意義。
posted2016/08/12 12:30
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph by
JMPA
メダルの煌びやかさはない。ささやかな前進に過ぎないかもしれない。けれども、確実に意味のある一歩を踏んだ。
体操女子個人総合でエース寺本明日香が57.965で8位に入り、'64年東京五輪6位の池田敬子さん以来となる入賞を果たした。
「メダルは取れなかったけど、自分の実力をしっかり出せた。五輪ではそれだけでもすごいことだと思うので、良かったです」
言葉の端々に達成感がにじみ出ていた。
1種目めの段違い平行棒は、激痛に耐えながらの演技だった。2日前の団体決勝で右手親指付け根の部分のマメが破れ、直径1.5cmほど皮がむけていた。
「演技中にいきなりむけた。小学生以来のことだった」
テープを貼るなどして対応したが、個人総合決勝前のサブ会場での練習でも同じ箇所がめくれ、試合会場でのアップでも、まためくれた。
処置をしても戻ってしまうという繰り返し。指導する坂本周次コーチは「結局、試合になったら、緊張で痛みがなくなる。思い切りいけ」と送り出した。
「痛すぎて集中できなかった」と思えない動き。
すると、「痛すぎて演技に集中できなかった」(寺本)とは思えないような出来映えを見せた。大きなミスなく着地でわずかに動いた程度にとどめて14.566とまずまずの得点。9位でスタートした。
予選で落下していた平均台と、調整段階で苦しんでいたゆかでは、安全策を取って難度を落としたことで、途中順位は10位、14位と下がっていったが、寺本に焦りはなかった。最終種目の跳馬にDスコア6.2の大技「チュソビチナ(前転跳び前方伸身宙返り1回半ひねり)」を持っているからだ。
助走開始直前にふくらはぎがけいれんするピンチに見舞われたが「絶対に失敗したくない」という強い気持ちで走り始め、会心の跳躍。着地もピタリと決めて15.100と15点台に乗せた。
結果は合計57.965点で8位。昨年の世界選手権で最終種目の平均台の降り技で失敗し、入賞ラインを逃す9位に終わった雪辱も果たした。