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実は3001本目を大切にしていた……。
イチロー夫妻、偉業の舞台裏で。
posted2016/08/16 12:00
text by
笹田幸嗣Koji Sasada
photograph by
Naoya Sanuki
3000安打偉業達成の翌日。イチローが本拠地マーリンズ・パークのフィールドにストレッチのために出てくると、チームメイトが笑いながら声をかけた。
「オイ、イチ、見てみろよ」
控え捕手のマシスが、そう言って指を向けた先には日米の報道陣がいた。だが、そこにいた日本報道陣はこのときわずかにふたりだけ。前日までは常に70人以上の日本報道陣がイチローの一挙手一投足を追いかけていたのとは、あまりにも違いすぎる光景。イチローはマシスに会釈した後、ジョークを交え、そして、ちょっぴり大袈裟に両腕で力こぶをつくって見せた。
ナインの間には笑い声が広がり、イチローも笑っている。たとえ練習であれ、フィールドでイチローが力こぶを見せるようなガッツポーズをしたことがあっただろうか。
「(これからは)感情を無にしてきたところを、嬉しかったり、悔しかったり、それなりの感情を少しだけ見せられたらいい」
前日の3000安打達成記者会見での思いを早速行動に移した無邪気なイチローの姿が微笑ましかった。
最近、「感謝」という言葉を使うことが増えた。
2015年にマーリンズ移籍後、イチローはよく「感謝」という言葉を使うようになった。
選手として、経験を積めば積むほどに人の痛みを知る。その裏返しとも感じる。ピート・ローズを越える日米通算4257安打を放った際には、
「アメリカに来て、途中、チームメイト、同じ仲間であっても、しんどかったことはたくさんあったが、今の仲間は『チームメイトとして最高』とハッキリ言える。まぁ、『子』たちですよね、年齢差から言えば。本当に感謝しています」
と話した。