野球場に散らばった余談としてBACK NUMBER
「悔いはないか? 後悔してないか?」
上園啓史を動かした上原浩治の言葉。
text by
酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph byAlfred Cop
posted2016/08/15 07:00
今季はオランダリーグの「オースターハウト・ツインズ」でプレーすることになった上園。
ルーキー時代のがむしゃらさでマウンドに。
マウンドでは日本で培った技量を示す。5月28日に完封でオランダ初勝利を飾ると、7月9日も強豪相手にシャットアウト。
「カーブをうまく使えている。がむしゃらに投げていた阪神1年目のような感覚ですね」
8試合に登板した時点で4勝1敗。50イニングを超えて防御率は1点台だ。いまなお、真摯に野球に向き合っている。
「違う国の野球を体験させてもらうことで、いままで知らなかった野球に対する考え方に気づきました。こっちは少年野球の練習内容も、日本と全然違う。キャッチボールは軽くやるくらいです。打撃もね、5m、10mくらいの距離で下から投げた球をティーのように打っている。それだと、投手と間合いを図ったり、できないと思うんですよ」
携帯電話に届いた上原浩治からのメッセージ。
一度は潰えたはずの志だった。
昨秋は楽天を戦力外になってトライアウトも受けたが、オファーは届かず。12月にオーストラリア・ウインターリーグでプレーして、現役生活の区切りをつけた。「4月からはサラリーマン。ここからは他のことを勉強していきたいです」とも話していた。家族を支える責任もあり、一般企業への就職を決めた。引退を周囲に報告する日々だったが、ある言葉がいつも脳裏をよぎっていた。
携帯電話に、こんなメールが届いたのだ。労をねぎらう文面を読み進めると、途中でのワンフレーズが目に留まり、心を激しく揺さぶられた。
「悔いはないか? 後悔してないか?」
プロに入る前から憧れていた人からのメッセージだった。
2年目の2008年に、巨人のエースと食事する機会に恵まれたという。とりとめのない会話でも、上園にとっては自らの前途を照らす糧になった。独身寮に帰ると、話していた内容を黒マジックで紙に書き連ねた。「30歳までは何も考えずつっ走れ!!」、「上を目指してることは良い事だが息苦しくなったら、下を見てみることも良いだろう」……。文末には「by上原」と続いていた。その後も、大リーグのレッドソックスでプレーする上原浩治の背中を追ってきた。