野球場に散らばった余談としてBACK NUMBER
「悔いはないか? 後悔してないか?」
上園啓史を動かした上原浩治の言葉。
text by
酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph byAlfred Cop
posted2016/08/15 07:00
今季はオランダリーグの「オースターハウト・ツインズ」でプレーすることになった上園。
楽天時代の同僚、ケニー・レイの野球人生。
「上原さんは何回も這い上がってこられている方。ずっと見ていて、もうダメだというところから這い上がってワールドシリーズでも活躍された。僕もまだまだ、30年以上ある。そのなかで生き方をどう考えようか……。野球に関わりたいと思わせていただきました」
憧れの人は一浪後に大学入学したり、先発から救援にも転向した。回り道は、実は近道だったりすることもある。
高校、大学が第一志望ではなかった上園は、アルバイトから世界一の投手に上り詰めたこの男に共感していた。レールは、いつの間にか、誰かに敷かれてしまっていることが多い。あえて、そこから脱線する生き方だってあるんじゃないか……。
生活の安定を求めるプロ野球選手のセカンドキャリア。上園は、世間が抱く「常識」から離れていく。道なき道への一歩を後押ししてくれた言葉は、意外なところに転がっていた。
「40歳近くで、日本球界に来たレイが異色の経歴なんです。楽天のときに、すごく興味があっていろいろ話を聞きました」
7月に楽天を自由契約になったケニー・レイは30歳を過ぎてから、米国、韓国、台湾、メキシコなど、世界中で投げてきた筋金入りの“ジャーニーマン”だ。その歩みが話題になったとき、ある一言を上園は聞き漏らさなかった。
「僕は野球に生かされてきた」
「Keep Working」
働き続けることさ──。上園はこうも明かす。
「最初はね、Keep Walkingかなとも思ったんですよ(笑)」
歩き続けること、か……。それも、何ともいい響きだ。心にじわりと染みいった。やはり、野球への思いを断ち切れなかった。
「やり続けることなんです。企業に就職する前、知人に言われました。『覚悟があるなら、この業界に来てもいい。でも、お前に負ける気はしない』。そりゃそうだなと。その方は10年以上、全力を注いで、その業界を極めようとしてきたわけです。僕は野球から離れようと思った時期もあったけど野球に生かされてきた。指導者になりたいとも考えてきた。オランダにいるのは長い人生の、ほんの短期間ですけど、ここで野球して生活した経験を生かしたいと思っています」
決して大柄ではない182cmの体で、思い切り打者にぶつかっていくピッチャーだった。情熱は衰えるどころか、燃えさかる一方だ。異国の野球少年を見て、こうつぶやく。
「日本のようにキャッチボールや基礎練習を大切にしてほしい。いっぱい教えたいこともありますけど、言葉の壁もあって、なかなか難しい部分もあります」
チームの柱として、シーズン佳境を迎える。8月は順位が決まる、大切なプレーオフを控えている。