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清原和博への告白。
~甲子園で敗れた男たちの物語~
posted2016/08/10 10:30
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
Katsuro Okazawa
誰かが言った。
「仕事とは熱量だ」
その意味で、5月某日、西船橋駅の居酒屋には確かに“熱"があった。
「俺、やっぱり、清原が好きなんだよ」
青春時代を過ごした、その場所で、編集長は奈良県生まれの自分がなぜ、船橋にきたかを話した。そして、親の引っ越しに伴って、千葉の高校への編入試験を受けた時のことを打ち明けた。
1985年、試験を終えた後、父の車の中で合格発表を待っていた。カーラジオから甲子園の決勝「PL学園対宇部商」の中継が流れていた。試験の出来に不安を残していたためか、ふと、こんな思いが浮かんだという。
「ここで清原がホームランを打ったら、俺は受かる」
同時に逆の思いもよぎった。
「打てなければ、落ちる」
気がつけば、手に汗握って応援していた。すると、本当に打った。4回、左翼へ放り込んだ。
清原和博の一発に人生を賭けた少年がいた。
でも、こんな、うまい話ってあるか……。願を掛けておきながら、まだ、信じきれなかった少年は、さらなる難題をPLの4番に背負わせた。
「もう1本打ったら、俺は受かる」
信じられないことに、また、打った。6回、今度はバックスクリーンだ。遠く離れた甲子園のスターと、自分とをつなげながら、興奮していた。そして、その後、合格したことを知った。
編集長が言わんとしたのはつまり、こうだった。清原と同世代に生まれた自分は、何か苦しいことにぶつかった時、願いをそのバットに、その背中に託してきた気がする。だからこそ、今、そんな自分ができることは何だろうか――。
日頃、Number編集部を動かしている、そのエンジンが、確かに、いつもより熱くなっていた気がする。