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いいスポーツ写真の条件とは何か?
トップカメラマンが語る「一瞬の美」。
posted2016/08/01 11:00
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph by
Adam Pretty/Getty Images
「このシンクロ、どうなってるんだ?」
冒頭の写真を見てそう感じた人は、すでに今回の主役に心を射抜かれている。
と言っても、主役はシンクロナイズドスイミングの選手ではなく、カメラマンだ。
躍動するアスリートの一瞬を切り取る、カメラマンとという存在。日本時間8月6日に開会式を迎えるリオデジャネイロ五輪でも、彼らの手によって数多くの印象的なシーンが生まれることだろう。
スポーツの祭典は、決定的瞬間を捉えようとする各国のカメラマンにとっては、ファインダー越しの“勝負の時”なのだ。そんなスポーツ写真の世界を、独特の感性で上り詰めた人物がいる。
そのカメラマンの名は、アダム・プリティ。
プリティは1997年にオーストラリアの新聞社でスポーツカメラマンとしてのキャリアを歩みはじめ、翌年にGetty Imagesに入社した。'00年シドニー大会から夏季、冬季通じて計7回の五輪で撮影に臨んでいるが、独特のアングルや構図で見る人をあっと言わせる写真を撮り続けている。
「僕は、見た人がつい二度見してしまうような写真を撮りたいんだ。『どんな風に撮ったんだろう?』と疑問を持ってくれて、頭の中に対話するようなストーリー性が生まれる写真が撮れたらいいなといつも思っているよ」
リオ五輪を前にしたタイミングで来日したプリティに、じっくりと話を聞くタイミングに恵まれた。かくいう筆者も事前に写真を見せてもらい、頭の中に「?」が生まれるばかりだった。せっかくなので自身のお気に入りだという写真たちについて“種明かし”してもらうことにした。
リフレクションフォト、という美しい構図。
まずは、シンクロナイズドスイミングの写真だ。これは2013年にカザンで行われた世界水泳での1コマ。プリティはこの写真が表示されると、嬉しそうに語り始めた。
「これはリフレクションフォトって言うんだよ」
リフレクションフォトとは、水中に潜ったスイマーの姿が頭上の水面に映った瞬間をタイミングよくとらえた、なんとも不思議な「反射」の写真だ。プリティがこの構図に気づいたのは、アマチュアカメラマンとして撮影していた'94年のことだったという。
「僕は水泳をやっていたから、自分で泳いでいるときに『こんな写真が撮れるんじゃないかな』って気づいたんだ。でも当時はカメラの防水機能がまだまだだったから、金魚の水槽に入れてカメラを水に沈めて、フラッシュを炊くためにホウキの先にライトをつけたりして工夫をしていたね。『ガラス製品はプールに入れちゃダメだ!』なんて叱られたこともあるけど、なんとかごまかして撮影したりしてね(笑)」