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いいスポーツ写真の条件とは何か?
トップカメラマンが語る「一瞬の美」。
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph byAdam Pretty/Getty Images
posted2016/08/01 11:00
美しい水面、対称の構図、選手達の表情。「一瞬」を捉える写真には、動画とは異なる固有の魅力がやはりあるのだ。
「自分の期待している構図にならないのも面白さ」
これはプリティがプール底面から北島を撮った写真だ。確かに北島の身体はセンターラインよりも明らかに左側に寄っている。また他の機会でも真ん中を泳ぐ構図のものはほとんど収めたことがないという。
「もちろんカメラマンとして、コウスケの強さは実感している。だからこそ金メダルを期待したい選手が、自分の期待している構図にならないのもスポーツの面白さだよね」
プリティは他競技でも不思議な感覚に陥る写真を収めている。数多のカメラマンがいる中で、自らにどうやって“スペシャリティ”をつけようとしているのだろうか。
「技法や知識は学んでいいけど、同じようなものを撮ることはするな。ということを教わり続けてきたんだよね。自分が意識していることの1つは、会場の背景などを何層も積み重ねて、初めてそこに選手が入るという構造だね」
プリティの説明したテクニックが凝縮された一枚は、'13年5月に行われた第67回全日本体操競技選手権大会でのものだ。女子選手が演技している写真だが、その平均台よりも気になるものがあった。
それは会場となった国立代々木第一体育館の特徴的な天井のデザインだという。
「体操はマットの上で行う競技だから、アングルが限られる。だけどこの時、僕は代々木の天井が美しいことに気がついて、あえて寝っ転がって、天井も入るように上の方を撮ったんだよ。だから平均台がちょっとしか映ってないんだけどね(笑)。競技の前に会場を歩きまわって、面白い背景を探すことが大事なんだ」