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いいスポーツ写真の条件とは何か?
トップカメラマンが語る「一瞬の美」。 

text by

茂野聡士

茂野聡士Satoshi Shigeno

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photograph byAdam Pretty/Getty Images

posted2016/08/01 11:00

いいスポーツ写真の条件とは何か?トップカメラマンが語る「一瞬の美」。<Number Web> photograph by Adam Pretty/Getty Images

美しい水面、対称の構図、選手達の表情。「一瞬」を捉える写真には、動画とは異なる固有の魅力がやはりあるのだ。

1日に1度しかない、水面が平らな瞬間。

 屈託のない表情で当時を振り返りつつ。世界水泳で収めた会心の1枚について掘り下げて説明した。

「複数の人が競技するシンクロでは、なかなかここまでキレイに水面に反射する写真は撮れないんだ。なぜかというと多くの選手が演技することで、水面にはどうしても小さな波が立ってしまう。その波が完全に収まるまでには10分くらいかかるので、まっさらな水面の状態で映せるチャンスは最初の組の演技だけしかない。水中に入る瞬間もみんな一斉に同じタイミングでないとないから、そうそう撮れる写真ではないんだ」

 この写真は、その日の最初の演技だった北朝鮮の選手のもの。プリティは練習なしの“一発勝負”でこの1枚をとらえたのだ。

 プリティは競泳写真の美しさのポイントとして「シンメトリー(=対称性)」も挙げている。

 これは同じく'13年世界水泳の男子平泳ぎに出場した選手の写真だ。平泳ぎでストロークする両腕はもちろん、ストロークによって生まれた水面の波、そしてプール底に敷かれているラインも選手に呼応するかのような模様を描いている。「この対称、綺麗でしょ? お気に入りの一枚だよ」と語ったプリティは、先日引退を表明した北島康介について、カメラマンならではの悩みをこう打ち明けた。

「コウスケ・キタジマは僕も何度も撮影した素晴らしいスイマーだ。ただ実は、彼には1つカメラマン泣かせの癖があるのを知ってるかい? 彼は決して、レーンの中央を泳がないんだ。だから、僕が狙っている真っ直ぐで対照的な構図がなかなか収められない。もちろんあれだけ偉大な選手に、『真ん中を泳いでくれ』なんて言えるわけないけどね(笑)」

【次ページ】 「自分の期待している構図にならないのも面白さ」

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アダム・プリティ
北島康介

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