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J優勝のために一度は断った五輪行き。
興梠慎三、全ては浦和のために。 

text by

二宮寿朗

二宮寿朗Toshio Ninomiya

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photograph byTsutomu Takasu

posted2016/07/19 18:00

J優勝のために一度は断った五輪行き。興梠慎三、全ては浦和のために。<Number Web> photograph by Tsutomu Takasu

遠藤航と興梠慎三という主力が五輪で抜ける浦和。彼らのためにも、ここで離されるわけにはいかない。

成長させてもらった浦和への恩返しは優勝しかない。

 南アフリカW杯以降、代表からも声が掛からなくなるなか、愛着のあった鹿島アントラーズを離れて浦和に移籍したのが3年前だった。環境を変えて、自分の成長を促したいとの思いがその背景にあった。

 興梠はじわじわとチームの特色と自分を同化させていった。

 ポストプレーの巧さは、今や国内随一と言っていい。鹿島時代には2度しかなかった2ケタゴールも、浦和では毎シーズン決めている。

 裏に抜けてよし、仕掛けてよし、活かしてよし。

 これに、収めてよし、打ってよし、活かされてよしまで加わった。

 一回り成長させてもらったチームに対する恩返しは、優勝しかない。取り逃がしてきたリーグ制覇を今季何としても成し遂げるためにも、大事な夏場にチームを離れるわけにはいかなかった。世界の舞台よりも、リーグ制覇。無理やり自分の気持ちを抑え込んだのではなく、彼のなかでは自然と出した答えだったに違いなかった。

 だが、手倉森から直接連絡を受けて「一緒に戦ってほしい」とストレートに熱意を伝えられ、気持ちに変化が訪れた。

 チームメイトの那須大亮も「結構悩んでいるように見えた」と語っている。そして悩んだ末に、彼はついに「3人目のオーバーエイジ」となることを決断したのだった。

評価されたのは、万能ぶりと「がんばり」。

 指揮官はどうして興梠のオーバーエイジにこだわったのか。

 内定の際には、書面でこのようにコメントを発表している。

「興梠選手はしなやかさと、繰り返し野性味を発揮し続けられるタフさがあります。ポストプレーも、裏へ抜け出すプレーも、引いた相手に対しても、カウンター攻撃にも適応できます。間違いなくリオデジャネイロオリンピックで、チームに攻撃のバリエーションを増やせる選手です。身体能力のある相手にも彼のしなやかさは効果を発揮するでしょう。

 プロサッカー選手になって以来、鹿島アントラーズのため、そして、浦和レッズのためにがんばってきた興梠選手に、このタイミングで日本のために輝いて欲しいと思います。そして2018年のロシアW杯での活躍をものにできる可能性を高めて欲しいです」

 プレーの万能ぶりを評価しつつ、鹿島や浦和のために「がんばってきた」とわざわざ表現しているところが意味深い。彼はチームの色に染まろうとし、チームの潤滑油でもあろうとしてきた。その興梠の陰なる働きが、手倉森には輝いて見えたのだろう。

 若い選手たちを活かしてくれる、能力を引き出してくれる。そのうえで自分の力を発揮してくれる。個も組織も、全体をスケールアップさせるための外せない存在。そう確信したからこそ、指揮官は断られても簡単に引き下がるわけにはいかなかったのではあるまいか。

【次ページ】 自分の成長は、浦和の力になるために。

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