猛牛のささやきBACK NUMBER
オリ佐藤世那の理想は“汚い”直球?
思い出の地・舞洲を巣立つために。
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2016/07/09 11:00
昨夏甲子園で準優勝投手となった佐藤世那は、二軍の地で緩急を身につけようとしている。
女房役の伊藤は「カーブ使っていこう」と言った。
6月9日に鳴尾浜球場で行われた阪神戦では、3本塁打を打たれて7失点し4回2/3で降板した。
「ボコボコっす。まっすぐをピンポン球のように弾き返された。とりあえず、まずは体重を戻さないと」とショックを隠せなかった。
ところがそれから約1週間後の6月17日、舞洲ベースボールスタジアムで行われた阪神との再戦では、6回被安打2、無四球1失点の好投を見せた。
1週間で劇的にストレートが変化したわけではない。佐藤といえば、昨夏の甲子園で強い印象を残した威力のあるストレートと2種類のフォークが代名詞だが、プロの世界で活路を開く助けとなったのは、意外な武器だった。
「カーブ使っていこう」
そう言って佐藤を新境地に導いたのは、初めてバッテリーを組んだ捕手・伊藤光だ。伊藤はその意図をこう明かした。
アーム式から繰り出されるカーブでタイミングを外す。
「先発の場合、まっすぐがいいからって抑えられるわけじゃない。2回ほどブルペンで世那のボールを受けたんですが、ゆるいボールも持っているんだったら使おうと思って。投げ方のわりには器用なピッチャーなんです。ここイチの時や打たれて後悔するような場面で(カーブを)使うわけじゃないので、それぐらいの気持ちで来ればいいからって言って。フォークやスライダーやまっすぐを、ここぞという時に使えるように取っておきたいというイメージがあるので」
特に3回以降はカーブでテンポよくカウントを取り、ストライク先行の流れに持っていった。佐藤は肘をたたまずに投げるアーム式と呼ばれる投球フォームが特徴だ。その豪快なフォームに打者が身構えたところに、ゆったりと弧を描くカーブがきて、相手はタイミングを外された。
3本塁打を浴びた6月9日の試合では、カーブは1球も使っていなかった。高校時代も、1試合9イニングを投げて5球ほどしか使わなかったボールだが、この日は6イニングで約15球も投げた。